〈一緒の時間をすごせて本当に嬉しかった。来週もまた会える?〉
夜、初めて自分から誘ってみた。ギヨームは忙しいから、彼が声をかけてくれるのを待とう……そんなのは、意気地なしの言い訳だから。
〈もちろん! 土曜の昼は?〉
すぐに返信がきて、思わず「ぃよっし!」と叫んでいた。私も即返信せねばと鼻息荒くメールを打ちかけたとき、続いて届いたメッセージに固まる。
〈金曜の夜、地方に住んでる大学時代の友達が泊まることになってるんだ。紹介したいし、三人でランチにしようよ〉
フランス語は男性名詞、女性名詞を明確に分ける。「ami」は男友達で、「e」を付けた「amie」なら女友達。
――「une amie」って……女友達を泊めるってこと?
魔法にかかったようなギヨームとの耽美なダンスタイムが蘇り、頭がくらくらする。
――その女友達とも、イイ感じの流れで関係を持っちゃうわけ⁉
冷静になろうと狭い部屋をぐるぐる歩きまわる。それでも疑心暗鬼の暗い渦から逃れられない。スマホをベッドに放り投げると、課題を広げた机に頭を打ち付けて唸った。
どうにか気を落ち付け、ギヨーム提案の「三人でランチ」を承諾したものの、「女の子を泊めないで」とは言えなかった。男女のルームシェアも珍しくない国で、異性の友達が泊まることは、そう特別な話ではないと聞いていたから。
――ノートルダム……だいぶ修復作業が進んだ、のかな?
修士論文にも恋愛にも希望を見出せず、授業の後どん底の気分でやみくもにセーヌ沿いを歩いていると、対岸に大聖堂が現れて顔を上げた。
2019年の大火災で尖塔が崩れ落ち、激しく焼失したノートルダム大聖堂。2024年のパリオリンピックまでに再建予定というが、時間にルーズなフランスのこと、本当にわずか五年で大規模工事が終わるんだろうか。
勘繰ってしまうものの、美しく荘厳な姿を取り戻した「Notre-Dame(私たちの貴婦人)」をこの目で見てみたいという想いは強い。
――でも再建した時、私はもうパリにいないんだろうな。
感傷的な気分に浸りながら、橋を渡って近づいてみた。
昨年渡仏してきた当時は痛ましくシートで覆われていたけれど、今は工事の足場があるものの、圧倒的なゴシック建築の全貌が見て取れた。カメラを向ける観光客も多い。
ファサードから左側面にあたる静かな通りに回り込む。ぼんやりノートルダムを見上げていると、頭のなかであのレコード「パリの空の下」が再生された。
――そういえば、歌詞にノートルダムも出てきたな。「近くで時に悲しいドラマが生まれる」とか……「だけどパリだから全部うまくいく」みたいな。
なんだそりゃ、と内心で突っ込む。そうだったら、どれだけいいか。
Comment