意思を記した文書が家族の心の支えに


一方で、このような書面の存在が大きな助けになったという声があるのも確かです。そして、それは研究結果には表れない形なのかもしれないという指摘もあります。

自身も進行性の難病を抱えるカーティス医師は、「JAMA」と呼ばれる医学雑誌にこのような手記を寄せています(参考文献4)。自身の義母の話だそうです。


彼女は意志の強い女性で、家族を深く愛していました。70代半ばで、耐え難い痛みのために腰椎の手術を受けたのですが、手術台の上で心停止してしまったのです。意識回復の見込みがないことがわかると、私たち家族は集中治療室に医療チームとともに集まり、彼女が横たわっているのを見ました。

その際、私たちは彼女が手書きで書いたリビング・ウィルを朗読しました。それは、生命維持装置で生かされることを望まず、家族とコミュニケーションをとる力がなくなったら、もう絶対に生かされたくないという思いを記した家族への手紙でした。

生命維持装置による生命維持を望んでいないことは、その手紙がなくても、家族の誰一人として疑う余地はありませんでした。ですから、この文書によって、彼女への治療が変わったというわけではありません。しかし、あの手紙は、集まった妻、義父、義兄、そして私にとって、深い心の支えになりました。

 

厚生労働省が過去に行った調査(参考文献5)によれば、日本でも66%の人がこのように意思表示の書面を事前に作成しておくことに賛成を示し、またそれは年齢が若くなっていくほど高まる傾向も見られています。しかし、実際に作成していると答えたのは、8.1%にとどまっていました。

 

ここから見えてくるのは、その意義や希望とは裏腹に、十分認知されていないという現状なのかもしれません。まずはそのような書面が存在すること、それを知っておくということが大切な第一歩なのだと思います。


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参考文献
1 POLST: Portable medical orders for seriously ill or frail individuals. https://polst.org/ (accessed Feb 6, 2022).
2 Brinkman-Stoppelenburg A, Rietjens JAC, Van Der Heide A. The effects of advance care planning on end-of-life care: a systematic review. Palliat Med 2014; 28: 1000–25.
3 Kim YS, Escobar GJ, Halpern SD, Greene JD, Kipnis P, Liu V. The Natural History of Changes in Preferences for Life-Sustaining Treatments and Implications for Inpatient Mortality in Younger and Older Hospitalized Adults. J Am Geriatr Soc 2016; 64: 981–9.
4 Curtis JR. Three Stories About the Value of Advance Care Planning. JAMA 2021; 326: 2133.
5 人生の最終段階における医療に関する意識調査 報告書 平成30年3月 人生の最終段階における医療の普及・啓発の在り方に関する検討会. .

構成/中川明紀
写真/shutterstock

 
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