価値観を確認し、治療方針を決める


2つ目のステップ「E」は「Expect emotion」で「感情を予期する」ということです。治療方針の話は多くの場合、不安を与えるものです。ここで治療方針の決定を急ぐのではなく、少しポーズを置くというのが大事なポイントです。本人が情報を咀嚼するのに少し時間がかかる場合には、沈黙で間を作るのも大切かもしれません。

あるいは、不安などの感情が高まっている際には共感を示すのも大切なポイントです。これは医療の場面だけではなく、あらゆる日常生活のシーンで役に立つ技術でもあります。不安や恐怖など、強い感情がある時、人の判断能力は鈍り、正しい判断が難しくなります。あるいは、大切な情報が頭に入らなくなってしまうことも考えられます。

「きっと私には想像もできないような大変な状況だよね」
「これだけの情報を一度に聞いたら不安になるのも無理はないよ」
「どんなに困った時でも私がついているよ」

そんな場面で声かけに用いられるのが、このような言葉です。あまりに大きく感情が揺れ動く時は、話を急がず、日をあらためてというのもいいでしょう。そして気持ちが準備できたところで、初めて次の話にうつるのです。

「家族が大きな病気に...」本人に寄り添い治療方針を決めるステップとは?【医師・山田悠史】_img0
 

3つ目のステップである「M」は「Map out the future」で「未来の計画を立てる」という意味ですが、ここでは、治療方針を決めるのにあたって重要な、本人の価値観や生きがいを確認します。

 

「病気のことを知ったうえで、今何が一番自分に大切だと思う?」
「将来のことを考える時、どんなことが気がかり?」
「将来、こんな状況だけは避けたいということはある?」

それらが確認できたら、改めて本人の価値観を確認する作業を行います。これが4つ目のステップ「A」で「Align with values」、「価値観に寄り添う」ステップです。

「改めて確認させてもらうけど、最も大切にしていることは、〇〇だよね」
「逆に、避けたい状況は〇〇だよね」

それが確認できたところで、はじめて価値観に沿った治療方針を決めるステップ「P=Plan treatments that match values」に入ります。ここからは、専門的な知識も必要なステップなので、治療方針の話であれば医療チームと一緒に決断することになるでしょう。

「今大切にされていることを踏まえて、治療法をこちらからお勧めしてもいいですか?」

こうして、医師は初めて価値観に沿った治療法の推奨をするステップに入ることができます。REMAPという方法を用いることによって、より患者さんに合った治療の選択が可能になるのです。


前回記事「最期に希望する治療方針を記しておく「事前指示書」がもたらすもの【医師・山田悠史】」はこちら>>


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参考文献
1 Childers JW, Back AL, Tulsky JA, Arnold RM. REMAP: A Framework for Goals of Care Conversations. J Oncol Pract 2017; 13: e844–50.

構成/中川明紀
写真/shutterstock

 
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