兄弟や姉妹というものは、小さい頃は一緒に過ごしていますが、やがて進学、就職、結婚などで別々の人生を歩んでいきます。離れても仲がいい場合もあれば、冠婚葬祭以外会う機会がない、なんてこともあるでしょう。かといって、血のつながりがある以上、赤の他人にはなりえません。というわけで、切っても切れない不思議な関係とも言えます。現在、モーニングで連載中の『ツイステッド・シスターズ』は、なんと上から75歳、60歳、45歳、20歳という、父親は同じだけれども、世代が違いすぎる4人姉妹の物語。昨年、画業40周年を迎えた山下和美先生の最新作が注目を集めています。

普段は親兄弟、姉妹と疎遠な人でも、「危篤」という一報が入ると、緊張が走るはず。一も二もなく駆けつけるか、行きたくてもいけないのか、それとも「今さら知ったことか」と無視するケースもあるかもしれません。

 

『ツイステッド・シスターズ』は、45歳の漫画家・理華子(りかこ)が25年続いた長寿連載を描き終えるところから始まります(ある男女の高校3年間の青春を、25年もの歳月をかけて描いていた!)。編集者に「少し休んだら新作の準備に入りましょう」と言われるものの、とにかく今はただひたすらに眠りたい……

 

そんな理華子のところに、一本の電話が入ります。理華子の妹だと名乗る宝冠(ティアラ)という名前の女性が、「パパが今…… 危篤なんです」と。危篤だから至急病院に来てほしいと言われたものの、そもそも理華子には妹なんていない。試しに父・五百蔵正(いおろい・ただし)の誕生日を聞いてみると、「パパは大正10年6月22日生まれ 100歳です」と答えるティアラ。理華子は正が55歳の時の子どもで、誕生日は間違いない。しかも、ティアラは正が80歳の時にできた子どもだというのです。

「80歳で子供つくるとか お父さんまじキモイ」と理華子が思うのも無理はありません。理華子には、異母姉妹である75歳の長女・良子と、60歳の次女・純子がいるのですが、ティアラはこの2人にも連絡を取っていて、ふたりとも病院に来るとのこと。しかし、理華子はそれもにわかには信じられません。なんせ、彼女たちからしてみれば、父・正は自分と母親を捨て、次々と別の女性のもとに走っていったひどい父親なわけですから。

また、理華子は小さい頃から上の姉2人に、後妻の子だからと嫌がらせばかり受けてきていたので、姉たちにも絶対に会いたくありませんでした。父は誰に対しても優しすぎて自由奔放。さらには恋多き男! 実の娘だからこそ、そんな父を到底受け入れることはできないようです。

 

当然のことながら理華子は、いくら正が危篤でも病院に行く気ゼロだったのですが、ティアラに「私一人の間に死んじゃったら……」と泣きつかれ、しぶしぶ病院に向かうことに。

病室に着くと、なぜか豪奢なカーテンがかかっており、ドレス姿のティアラが待ち構えていました。頭の中がバグりそうな“コスプレ臨終”に怒って帰ろうとしますが、これは父の“マイブーム”に合わせてこういう格好をしているのだと、すかさず気づいた理華子は、紛れもなく正の娘。そしてそこには、理華子と同じ手口でティアラに呼び出された長女と次女もいて、既にドレスに着替えていました。

 

今際の際の100歳の正をかこむドレス姿の4姉妹。涙を流して正にすがりつくのはティアラだけで、75歳の良子、60歳の純子、45歳の理華子はそれぞれバラバラな表情を浮かべるのみ。その表情から、それぞれの娘たちが長年正に対して複雑な心境を抱いていたのが垣間見えます。

 

正は「山縣有朋 許すまじ……」という謎の言葉を残してこの世を去っていきました。しかし、これで終わりではありません。むしろ、このバラバラな姉妹にとっては、パンドラの箱が強制的に開けられてしまったかのような怒涛の展開の始まりに過ぎなかったのでした――。

自分をいじめ抜き、誰かが死ぬまで会うことはないと思っていた姉2人と、父亡き日に初めて存在を知った25歳年下の妹・ティアラと期せずして父の葬儀などのために一緒に行動することになった理華子。超疎遠+初対面のはずなのに、いざ喋りだすと姉妹感がダダ漏れで妙にリアル。みんな超マイペースなのは、実は父の正譲りなのかも。

 

また、物語に出てくるいくつかの謎も気になるところです。まずひとつめは遺言書の存在。正には多額の遺産があるようで、遺言書には「五人の娘」という文字が! もうすぐ20歳になるティアラの下に、実は正とイギリス人女性との間に生まれたばかりの女の子がいるらしいのです。まさかの5番目の妹!?

また、世田谷の住宅街に佇む洋館も謎。明治から昭和にかけて立憲政治のために尽力し、“憲政の神様”といわれた政治家・尾崎行雄邸らしいのですが、なぜか正がここの鍵を持っていました。正が言い遺した「山縣有朋」は、江戸末期から大正にかけて活躍した陸軍の軍人で政治家のこと。尾崎行雄とは政治的に対立関係にあった時期もあるのですが、正の遺言(?)も何を意味しているのか?

 

山下和美先生は、世田谷区豪徳寺に現存する英国風洋館の尾崎行雄邸の保存運動に関わっています。2020年に解体されるところを免れたものの、保存のためには補修が必要で、1億円以上もの費用がかかるそう。そこで、保存のために奮闘する様子を『世田谷イチ古い洋館の家主になる』(集英社)というエッセイコミックで綴ったり、クラウドファンディングを行ったりしているのです。現実世界では存続の危機にある尾崎行雄邸が、フィクションである本作でどうなっていくかも気になるところです。

血がつながっているだけで、お互いのことをろくに知らない奇妙な姉妹の物語は、1話ごとに「えー?」と意表を付かれまくりで、それでいて確実に面白い。昨年12月23日に単行本1巻が出たばかり。兄弟姉妹がいる人も、そうでない人も今すぐ読むべし! な作品です。

 

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作者プロフィール

山下和美 やました・かずみ

1980年、「週刊マーガレット」からデビュー。主に少女マンガ誌を中心に活躍していたが、『天才柳沢教授の生活』 で「モーニング」にて不定期連載を開始。以降、『不思議な少年』 など話題作を発表し、女性、男性問わず幅広い人気を得る。2020年夏まで連載していた『ランド』 は、第25回手塚治虫文化賞マンガ大賞を受賞した。

『ツイステッド・シスターズ』
山下和美 講談社

百歳の父の危篤がきっかけで、疎遠だった腹違いの四姉妹が再集結。
家族、お金、居場所、生きがい、それぞれ何かを失っている彼女たちがぶつかりながら、見つけていくものとは——。
『ランド』で現代社会の不安を描き切った山下和美が次に挑むのは「家族」! 毎日が愛おしくなる? ファミリーコメディ、開幕!