日本の社会では少子高齢化、生涯未婚率の上昇、単身世帯の急増、離婚率の上昇、LGBTの認知などが加速し、家族のあり方も画一的ではなくなってきました。「家族」って一体何なのでしょうか。現在、月刊「モーニング・ツー」で連載中の『母の元カノと暮らした。』は、沖縄県那覇市を舞台にした、ちょっと不思議なメンバーによる、奇妙な同居生活を描いていた作品。何気ない日常生活にほんわかしつつ、「家族」について考えてみたくなります。

物語は、ひとりの女性・晴海(はるみ)の死から始まります。那覇市内のバーでおりょうとさゆりという二人の女性が飲みながら待っていたのは、東京まで葬儀に行った健子(やすこ)のこと。喪服姿でバーに入った健子は、男子中学生を伴っていました。

 

実はこの男子中学生は亡き晴海の一人息子で、母によく似た顔立ちのゆう。晴海が亡くなった直後にゆうの父は蒸発し、晴海の祖父は服役中。というとで、晴海のはとこである健子がゆうを東京から沖縄に連れてきて一緒に暮らすことにしたといいます。おりょうとさゆりは健子の同居人で、20〜30代の女性3人暮らしのところに、晴海の息子である男子中学生が生活を共にするってどうよ? とおりょうとさゆりは難色を示します。

 

晴海は男とデキ婚してから十数年、きっと楽しくやっているのだろうと思いきや、ゆうを残してこの世を去ってしまった。そして、晴海の最期の言葉は、「やっぱ旦那じゃなかったなァ……」というもの。

 

一緒に暮らすことについて揉めている3人を前にしたゆうは、迷惑をかけるわけにはいかないと、「僕はひとりでも大丈夫なので……」と震えながらつぶやきます。それを見たおりょうとさゆりはゆうを受け入れることに。

 

ところで、気になるのは健子、おりょう、さゆりの3人の関係性。実は彼女たちは全員、晴海の“元カノ”だったのです。自分の母親の“元カノ”3人と、生まれ育った東京から遠く離れた沖縄での暮らしやいかに!?

 

物語は奇妙な同居生活を軸に、ゆうの沖縄での学校生活、健子、おりょう、さゆりと晴海との過去の思い出、晴海が言い遺した「やっぱ旦那じゃなかったなァ……」という言葉の謎などを交えつつ、ゆるやかに進んでいきます。

作者の宮城みちさんが沖縄出身・在住なだけに、スコールのような“片降(かたぶ)い”、学校の先輩と後輩が姉妹のように仲良くする風習の“姉妹制度”、暑い日に食べると美味しい、沖縄名物の天ぷらとA&Wルートビア(炭酸飲料)など、沖縄らしさが随所に散りばめられています。

この作品は、晴海と3人の女性の同性同士の恋愛や、同居生活を送る“元カノ”たち連帯感が中心になっていますが、ゆうの同級生にもいろいろあるようです。母子家庭の女の子の葛藤や、同級生同士の淡い恋心など、こちらも気になるところ。登場人物たちの生きてきた背景やセクシュアリティはバラバラで、ゆうのように家族を失ってしまった人もいるけれど、それぞれがそれぞれの立場で悩んだり、誰かの言葉で救われたり、といったことが丁寧に描かれています。昨年12月23日に発売された単行本1巻の最後には、思いがけない展開も待ち構えています。
 

“母の元カノ”たちと遺された息子という変わった組み合わせの面々ですが、彼女たちの何気ない日常を通して、血の繋がりや、昔ながらの家族のあり方よりも、何を大切にして、今をどう生きるかといったことを考えたくなる、じわじわと温もりの伝わってくる良作です。


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『母の元カノと暮らした。』
宮城みち 講談社

母の晴海が亡くなって、父は蒸発。天涯孤独となった中学生・ゆうくんが引き取られたのは「母の元カノ3人が暮らす沖縄の家」だった——!? 「やっぱ旦那じゃなかったなァ…」と最期の言葉をこぼした母が、最期に一緒にいたかったのは誰だろう? 開放的な南国の空の下、昔の母をよく知る3人と過ごす、奇妙な共同生活。