2月22日は、「にゃん(2)にゃん(2)にゃん(2)」の語呂合わせでネコの日です。「イヌは人につき、ネコは家につく」とよくいいますよね。イヌは人間(飼い主)になつくけれどネコは人間にはなつかない、という意味で使われますが、なつく・なつかないに関係なく、人間が長年、ネコをペットとして飼ってきたのはなぜなのでしょう。

それはきっと「好きだからずっとそばにいたい」という気持ちがあるから。
ネコが人間を愛しているかどうかや、役に立つかどうかにかかわらず、人間の方はネコが大好きでとにかくそばにいたくなるのです。
でも、「ずっとそばにいる」って、現実には簡単なことではありません⋯⋯。

『シロがいて』は、目つきの悪い白ネコと家族四人の関係が変わっていく17年をつづるなかに、「好きだからずっとそばにいたい」という家族への愛がそっと隠されている作品です。

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『シロがいて』 (フラワーコミックスアルファ)

父親の武、母親の絵里子、娘の真美、息子の航、の四人の家族は、35年ローンで東京郊外に建てた新築のマイホームに引っ越してきます。

ある日、家に一匹の白ネコが入り込んでいるのを見つけます。新築なのにどこから入ってきたのか不思議に思う母親と娘。ギクリとする息子。

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お父さんが拾ってきたのかな? と話すも、帰宅した父親は三人がかわいがるネコを見るなり「おれはネコがきらいだ!」と叫びます。

 

実は、息子の航が公園からこっそり拾ってきていたのです。

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目つきが悪くて鳴き声もかわいくなく、引き取り手のなかった捨てネコに、すっかり情が移った航。
でも、父親の武はネコを飼うことには反対でした。

畜生のくせに言うことをきかん
なんの役にも立たんくせに——
⋯⋯死ねば あいつらが泣くし⋯

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子どもを思うツンデレな夫に、にやける妻。

とにかくネコはダメだ!

翌朝、出勤前に「公園に戻してくるんだぞ」と息子に言いつける武。しょんぼりする航。
絵里子と真美は、他に引き取り手がいないか「里親募集の会」を同級生相手に開きますが、いざ引き取り手が現れると、航が泣き出してしまい、里親計画は頓挫。

夕飯時、上の階でドタバタ暴れ、鳴き続けるネコにイライラした武は、子どもたちが寝静まった夜中にあることをします⋯⋯。

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この日を境に、シロと家族4人の17年間にわたる歴史が始まります。

一匹のネコを囲むハートウォーミングな家族の物語かと思いきや、飼って三年経っても、父親の武はシロに邪険な態度をとっています。

自分の鞄に爪とぎをされると、

——こらっ バカネコ!
何度教えてもおぼえんなあ!

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と蹴飛ばします。ネコ好きなら、航と同じく「蹴らないで!」と思うシーンです。

武は、シロだけでなく、子どもたちにもやたらと怒鳴りつけます。特に航は、ひとことも言い返さず怒鳴られっぱなしです。

一家の大黒柱としてマイホームを建てた自負があり、いつも眉間にシワを寄せたしかめっ面で、子どもにヘラヘラするなんてとんでもない、といったザ・昭和のガンコ親父な性格。

そんな父親を中心として、のほほんと見える母、父親に言い返す気の強さがある真美、母に似たのかのんびりした性格の航、この四人家族のひずみが、話を追うごとに徐々に表れてくるのです。

思春期になり、父親がイヤでたまらなくなる12歳の真美。武の怒鳴り声に耳をふさぎ、エレクトーンの発表会の衣装をめぐって、武と大ゲンカします。

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その四年後、私立中学受験をするか迷っている12歳の航。父親は「要領が悪くてプレッシャーに弱い」からこそ、お前は中学受験をすべきだ、と説教をします。
何も言えなくなってしまう航。

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なかなか塾の成績が伸びない航のことを考える武は、部下の女性から仕事の相談を受けます。

が、そこから不穏な展開に。

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娘は父親を避けるようになり、息子は父親に叱られることを恐れ、父親には女性の影が見え隠れ。

ザ・昭和気質の父親を中心に、穏やかではない空気が家族の間に流れ出します。

また、シロもわかりやすくかわいいネコではありません。「だれもひろってくれない」だけあって、目つきが悪く、鳴いてもダミ声。性格もこの家族だけに特別になつく、わけでもなかったのでした。

7歳になったシロは、どこかで何かもらって食べてきているようで、せっかく用意したご飯を食べずにスルーしました。

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でも、拾ってきた航はもちろん、絵里子や真美もシロをかわいがり、共に暮らし続けます。

本作では、新築のマイホームに移り住んで幸せそうに見える家族が、家が古くなるとともにひずみが生まれていく17年間が描かれます。

ほのぼのするエピソードもありますが、子どもたちと父親の折り合いがつかないという問題を、うやむやにしないのが西炯子作品。
親子の確執だけでなく、父親が家族を裏切っていた日々が描かれるのもポイントです。そう、家族がバラバラになる原因を作っているのは、父親。

父親は、家族やシロから「逃げ」てきました。

シロが家にやってきた時、ネコが死んだら子どもが泣くのがいやだから飼いたくない、と言っていた父親は、ネコの命の重みから逃げていた、といえます。
また、子どもたちに怒鳴ることで言うことを聞かせようとしたり、どこでも爪研ぎをするシロを蹴とばすのも、自分の思い通りにならない小さな者にうまく向き合えない「逃げ」を感じるんですよね。

「思い通りにならない小さな者」のはずのシロが、なぜか父親と重ね合わせて描かれるシーンもポイント。
「よそでご飯を食べてきてしまう」ネコとしての行動が、父親とリンクして描かれる時、「男の性(さが)」のようなものを生々しく見せてきて、ドキッとさせられます。
そういえば、目つきが鋭いところもシロと父親は似ているのです。

ストーリー終盤では、父親も、シロも、歳をとります。
17年間、彼らの近くにいたのは誰だったのか。それは本編を読んでみてくださいね。

逃げずに「ずっとそばにいる」には、底知れぬ愛情と覚悟がいるのです。ネコも、人間も。
 

 


【漫画】『シロがいて』第1話を試し読み!
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『シロがいて』
西 炯子 (著)
小学館 フラワーコミックスα

「そのネコの記憶は父が35年ローンで東京郊外に建てた家から始まる」四人家族の長男・航(わたる)が拾ってきたシロをめぐって綴られていく家族の物語。成長する子どもたち、そして家族は少しずつ形をかえていく――ひりひりするようなリアルを含んで1話1話展開されていく、よみきり連作集


作者プロフィール

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西 炯子
大人の恋愛漫画の名手として知られる。代表作『娚の一生』や『お父さん、チビがいなくなりました』『STAY~ああ今年の夏も何もなかったわ〜』は実写映画化された。現在は「月刊flowers」(小学館)で『初恋の世界』、「ビッグコミックオリジナル」(小学館)で『たーたん』を連載中。


©️西炯子/小学館
構成/大槻由実子