今でこそ、マンガやアニメは全世界的に熱狂的なファンを惹きつける“クール・ジャパン”の代表格。しかし、かつてアニメやマンガ、ゲーム好きはどこか“オタク”であることに後ろめたさを感じていて、暗くて、そのことを公言しづらい時代がありました。現在、Kissで連載中の『古(いにしえ)オタクの恋わずらい』は、1990年代にアニメやマンガに熱中していた女子高生の恋模様を描くラブコメディ。今はすっかり大人になったけど、かつて青春時代にマンガやアニメにハマっていた人なら、あるあるすぎて主人公に感情移入しまくりの注目作です。

ファストファッションブランドと人気マンガのコラボTシャツに、渋谷のファッションビルに爆誕したアニメやゲームのフロアなど、マンガやアニメ、ゲームが連日のようにニュースとなり、すっかり市民権を獲得。さらに盛り上がりを見せている現状に愕然としていたのが、16歳の娘を持つシングルマザーの佐東恵(42)でした。

 

その娘・桜はアニメキャラがプリントされた服に身を包み、リュックに缶バッジやキーホルダーをじゃらじゃらと付け、スクールカースト高めのギャル系女子とも仲良し。恵が高校生だった頃にはありえない光景でした。

 

遡ること26年前の1995年は、ネットや携帯は普及しておらず、ポケベル全盛期。女子高生といえばコギャル、プリクラな時代でした。当然のことながらオタクは市民権を得ていません。17歳だった恵は転校を機に、新天地ではオタクを隠して生きていくことを決意していました。アニメやマンガ好きは迫害され、「キモイ」「暗い」と烙印を押されてしまいかねなかったからです。

満を持して、元気な人気者キャラを意識して自己紹介に臨んだところダダ滑り。逆にクラスメイトにドン引きされてしまいました。一人で過ごすことに慣れている恵は、大好きな「スラダン(スラムダンク)」のルカワくんがこのクラスにいたら……、などとノートに絵を描きながら、自分の思い通りになる妄想の世界に沈みつつありました。そんな恵を現実に引き戻したのは、オールバックのコワモテ男子。

 

圧ありすぎで、「カツアゲされる!」と怯える恵でしたが、実は面倒見のいい学級委員の梶正宗(名前が一昔前の少年漫画のヒーローみたいだ!)。彼の“特攻”がきっかけで、恵はクラスのみんなと打ち解けられるように。その後、クラスの女子に学校内を案内してもらっていた恵は、さきほどの正宗が、体育館で髪を下ろしてバスケをする姿を目の当たりにします。まさに、「スラダン」のルカワそのもの!! 恵はギャップ萌えというか、ギャップ惚れしてしまったのです。

 

なぜか成り行きで、放課後に正宗の自転車で駅まで送ってもらえることになった恵。人生で2回くらいしか男子と話したことがなかった恵にとっては、いきなりの少女漫画的展開に! 途中で不良に絡まれてヤンキー漫画になりかけたものの、正宗が圧倒的な強さを見せて撃退(ここも少年漫画的でよき)。ちょっといい感じになって心ときめいた恵は思い切って、「オタク系の人ってどう思う?」と聞いてみると……。

「死ぬほど嫌い」

というまさかの答え。やはりオタクは隠すべきもので、リアルな誰かを好きになったり、恋愛をしたりすることはできないのか? どうなる!? 恵の青春!

この作品を読んでいると、小学生の頃からマンガやアニメが好きだった自分とかぶるかぶる。ノートに絵を描いていたのを見られて、からかわれたこともあったな……(遠い目)。自分がすごく好きなものなのに、「これが好き!」と堂々と言いづらい恥ずかしさや辛さはなんだったのか。今なら、インターネット上でいくらでも“同士”を見つけることができるし、たとえマニアックな趣味だったとしても「キモっ!」とバッサリ斬られることはまずない。

物語は1995年の17歳の恵と、2021年の42歳の恵を行ったり来たりしながら進んでいきます。恵は正宗に恋心を募らせますが、自分がオタクだということがバレなければ彼との距離を縮められるのではないかと考えます。一方で、やっぱりマンガやアニメ好きなので、マンガ情報誌の文通相手募集欄(文通って懐かしい!)で知り合った、趣味が完全一致する結や、周囲からどんな目で見られようと「オタクでなぜ悪い」と自分を貫く、同じクラスのミコと、オタクならではの喜びに浸ることも(逆に、自分の中のオタクについて考えさせられて苦悩することもあるのですが)。

また、物語の随所に登場する、「新世紀エヴァンゲリオン」「ガンダムW」「スラダン」「GS美神」などといった90年代に話題になったマンガやアニメの数々がまたいい! 「知ってる!」「懐かしい!」と盛り上がるのもいいし、知らなくても、今もなお色褪せない名作ぞろいなので、これをきっかけに読んでみるのも楽しそう。

そして、最大の謎は、なぜ正宗はあんなにオタクを嫌悪しているのか? ということ。これは単行本1巻の最後にヒントになるような場面が出てくるので、「2巻はよ!!」という気持ちになること間違いなし。ちなみに、紙の単行本にはカバー裏におまけマンガがついていて、こちらも面白いので要チェック。

42歳の恵は、どんな人生を歩んだのかわからないものの、現在はシングルマザー。大人になっていろんなことを経験し、落ち着き、諦めも知ってしまったからこそ、青春時代のどこから湧いてきたかわからない熱量が眩しくて愛おしい。青春真っ只中の恵を応援しているうちに、すっかり忘れ去っていた自分の気持ちや思い出を揺さぶられます。90年代に青春時代を過ごした人はど真ん中ですし、違う世代でも共感しまくりなので、マンガ好きならぜひ読んでほしいイチオシ作品です。

 

『古オタクの恋わずらい』第1話をぜひチェック!
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『古オタクの恋わずらい』
ニコ・ニコルソン 講談社

「オタクは隠すもの」が常識のあの頃、転校を機にオタクを隠してキャラ変を目指す恵が、大人気のバスケ部エースと恋に落ちて、いきなり青春のど真ん中にデビュー――!?