「私たちは両親より10年ほど長生きし、20年ほど長く働ける可能性があるのに、世の中で力を持つ層は10歳ほど若返りつつある。ということは、私たち年長者が自分の役割を考え直さなければ、数十年も“用済み期間”が続いてしまうことになる」
この言葉にドキッとしない40代、50代は少ないのではないでしょうか。ですが、書籍『モダンエルダー 40代以上が「職場の賢者」を目指すこれからの働き方』に綴られたこの文章が意味するのは、40代以上を絶望させるものではなくむしろ逆。本書はそんな今だからこそ、年長者たちはもっと活躍できるはずだ、と教えてくれる一冊なのです。
著者であるチップ・コンリーさんは、シリコンバレーにある民泊仲介大手「Airbnb(エアビーアンドビー)」のシニアアドバイザーを務めた人物。50歳を超えて初めてIT業界に飛び込み、二回り以上も年下のメンバーたちに戸惑いながらも同社の世界的躍進を支えました。そこで自ら模索しながら辿り着いたのが、「モダンエルダー」という人物像。これから社会に求められるのは、若者にはない熟成された賢さと知恵をもって、デジタルネイティブ世代と共生できる「新しい年長者」だと言います。
今回は本書の翻訳版を担当し、ミリオンセラー書籍『ファクトフルネス』を世に送り出した敏腕編集者・中川ヒロミさんに、私たち40代以上が「モダンエルダー」に近づくにはどうしたらいいのか、そのヒントをお聞きします。
中川ヒロミさん
書籍編集者。日経BP コンシューマーメディアユニット長補佐 兼 書籍編集1部長 兼 日経BOOKプラス編集部部長。日経BPに入社後、通信の専門誌「日経コミュニケーション」の記者を経て、2005年から書籍編集に携わる。主な担当書籍は、『ファクトフルネス』『HARD THINGS』『HIGH OUTPUT MANAGEMENT』『スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン』『ジェフ・ベゾス 果てなき野望』などシリコンバレーの翻訳書が中心。猫好き、お肉好き。
シリコンバレーの “若き天才”たちも40代・50代が支えている
――アメリカのシリコンバレーの起業家に関する本を多く担当されてきた中川さんから見て、シリコンバレーで働く40代以上の方たちにはどんな印象を持っていますか?
みなさんもご存知のように、シリコンバレーでは20代や30代の起業家が興した事業が、あっという間に世界規模のサービスに発展していくケースが珍しくありません。そうした企業では“若き天才”たちに注目が集まりがちですが、実は40代、50代の方たちが屋台骨をがっちり支えていたりするわけです。しかもすごく元気で、楽しそうに働いていらっしゃるんですよね。管理職になって現場を離れざるを得なくなり、仕事がつらい、楽しくないと感じてしまう方も日本では少なくないと思うのですが、シリコンバレーで活躍している40代、50代の方々は新しい技術でもサービスでもなんでも自分で試して、楽しみながら働いている方が多いなと感じます。
――本書で知ったのですが、社員中央年齢はアップルが31歳、グーグルが30歳、フェイスブックが28歳と、とても若いですよね。さらにスタートアップとなると40代、50代は何か特殊な能力でもなければ「お荷物社員」扱いされてしまいそうですが……。
著者のチップ・コンリー氏はブティックホテルの社長を務めていらっしゃったものの、エアビーアンドビーは最先端のIT技術を駆使した宿泊サービスを提供する企業ですからね。チップ氏が52歳で入社した当初は、20歳も年下の若手社員に「そんなことも知らないんですか?」と言われていたんです。元々社長の立場だった彼からしてみれば、結構ショックな出来事だったと思うんですよね。エアビーアンドビーのCEOであるブライアン・チェスキー氏の熱烈なオファーで、若い彼らのメンターになるべく入社したものの、まるでインターンのような立場になってしまったわけですから。
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