日本の常識とは異なる、助産師の衝撃のアドバイス


助産婦は「順調ね」と産院で渡された黄色いノートになにやら書き込み、ビタミン剤などの処方箋をくれた。

早々に「ではまた来月」と帰されそうになり、慌てて気になっていたことを質問する。尋ねればテキパキと答えてくれて頼もしいのだが、こちらから動かなければ最低限のやり取りになるらしいと頭に刻み込む。

「妊娠中に良い食べ物? 上質な脂肪! バターやオリーブオイルなんかいいわね」

最近お腹がくだりすぎて体重が増えず心配していた。が、まさかいきなり脂肪を薦められるとは。

「もちろんタンパク質も。野菜はおまけでいいわ」

毎食必ず野菜を取り入れようと腐心していたのが急に馬鹿らしくなり、もうステーキだけでいい気がしてくる。

食事で気を付ける点については「お腹の赤ちゃんのためにも、どんどん食べなさい」と塩分や脂質についても何も触れない。「毎食バランスよく」という日本の感覚とはだいぶ異なっていて衝撃を受けた。

「いや、あの助産婦さんはフランスでもかなり特殊だと思うよ」

帰りがけに早速マルシェに立ち寄り、喜々として肉を選ぶ私の横で、食にうるさいリュカは不満そうに口を尖らせていた。

フランス人助産師の衝撃のアドバイス。日本人妊婦の不安とは? _img0
 

「あッ⁉」

臍の下あたりをどるんと蹴られたような感覚に、思わず声を上げていた。初めて感じた胎児の動きが予想以上に力強く、顔が火照ったように熱くなる。

――これが胎動か……!

 

妊娠六ヵ月目に入り、さすがにお腹は膨らんできたものの、前回のエコーは妊娠三ヵ月目で赤ちゃんの成長を実感できずにいた。助産婦の元で月一で心音を聞かせてもらうだけでは心許なく、元気に育っているのか心配だった。

久美子に教わった「シムス体位」という姿勢で左側を下にして横になっていたが、跳ね起きて歯磨きをしているリュカの元へ急ぐ。

「今ね、赤ちゃんが動いたよ!」

お腹に手を当ててもらい、二人で胎動を期待する。が、赤ちゃんはやる気を失ったのか全く動かない。

「いいなぁ、ずるい! 僕も感じたいッ」

本気で悔しそうなリュカは「ほら、パパにも!」と一生懸命お腹を励ましていたが、私が待つことに飽きてしまい「もう寝る」と終わらせた。

「しょうがない、赤ちゃんをミジョテしているママの特権だね」

「ミジョテ?」

知らない単語、というか会話の流れでも意味を推測できない単語は、アプリの仏和辞典に打ち込んでもらうことにしている。

〈mijoter:~をとろ火で煮込む。(料理が)ことこと煮える。〉

なるほど、お腹で赤ちゃんをじっくり育てているという意味合いで使ったらしい。音の響きが妙にかわいらしく発音も簡単なので、私はすぐさまこの動詞が気に入った。

「そうだよ、リュカは材料をくれただけで、私が十ヵ月もじっくりミジョテするんだから感謝しなさい」

得意気に言い放ち、いつになく良い気分で再びベッドにもぐりこんだ。