一子相伝で受け継がれるナレッジ。果たしてそれで良いのか?


経営層のキャリア形成に対する意識改革も必要ですが、湯浅さんの勤める会社では、研修制度がほとんどないという課題も深刻です。

「うちの会社は現場がみんな忙しいため、業務以外で時間を拘束されることを嫌います。だから、今日まで研修制度がほとんど整わずにきてしまったんです。うちでやる研修と言えば、新入社員向け、若手社員向け、管理職になることが決まった社員向けの3種類だけ。昔はそれで良かったのかもしれませんが、最近は特に管理職層でマネジメントに戸惑う人も増えていて、研修制度を厚くしていかなければとも思っています」

 

スキルとナレッジの習得をすべて現場任せにしてきたからこそ、今ではマネジメントに関する知見が上司から部下に代々受け継がれている状況があります。

「今のままだと、部署ごとでマネジメント方法に大きな差が生じてしまいますよね。多様な人が働きやすい職場にしなければいけないのに、いまだに『飲み二ケーション』に頼っている人も結構見かけるんですよ。この状況も、早く変えていきたいです」

湯浅さんは頭を抱えます。しかし、研修制度に関しては若干の”希望”もあるのだそう。

「うちの会社は、もともと勉強することが好きな人は多いはずなんです。業務時間中に研修を受けて勉強することもOKという文化に変えていければ、自然と学ぶ人が多くなると考えています。ただ、その文化を醸成するまでがとても大変ですけどね……」

これだけ多くの課題があるからこそ、セルフ・キャリアドックには興味があるものの、実際の導入は難しいと思っていると諦め顔の湯浅さん。次回の導入コンサルタントとの面談では、とりあえず現状の整理だけでもしていきたいとのことでした。

キャリア形成支援が抱える問題の原因は?


今回の取材で出てきた、人事制度や組織のあり方に関するさまざまな課題。「共感しかない」という方も、実は多いのではないでしょうか。これらの課題感は決してある企業に固有のものではなく、実は多くの企業に共通するものなのかもしれません。

実際、『令和2年度能力開発基本調査』によれば、7割以上の事業所で社員の能力開発や人材育成に関して何らかの課題があると回答されており、社員のキャリア形成支援については日本全体で深刻な問題です。

原因の一つとして考えられるのは、「キャリア」という言葉が持つイメージ。管理職世代の方々とお話をしていると「キャリア=転職」と思っている方も多く、キャリア形成支援を転職支援と勘違いしている方も多数見受けられます。だからこそ、「部下の自我を芽生えさせないように」と、多くの企業で社員の自律的なキャリア形成支援が遅れているのかもしれません。

次回は、「うちの会社では無理かも……」を「できるかもしれない」へ。導入コンサルタントとの面談で見えてきた”希望”についてご紹介します。

文/市岡光子