狙った人にだけ“あざとい”ヒロインと
全人類に好かれる系ヒロイン
ただ、時代の流れをガラリと変えたのが、2003年放送のドラマ『やまとなでしこ』(フジテレビ系)です。同作のヒロインは、玉の輿に乗ることを夢見る神野桜子(松嶋菜々子)。客室乗務員が、“スッチー”ともてはやされていた時代に制作されたため、「スチュワーデスです」と言っただけで、男性陣の目がハートマーク。桜子は、よりどりみどりのなかから、とびきりの大金持ちを捕まえるべく奮闘していきます。登場するモテテクも、さすがの一言。狙った人の洋服にわざと飲み物をこぼして、「あら、いけない! すぐに洗わなければ!」と2人だけの世界を作りだす。
ただ、桜子はあざと可愛い女子とは異なるんですよね。おそらく彼女は、全人類にモテるタイプではないし、全人類にモテたいなんて微塵も思っていないはず。対して、あざと可愛い女子はどんな人にも満遍なく可愛い。たとえば、合コンの時だけサラダを取り分ける……なんてことはしない。女子会だとしても、周囲に気を配って優しさを振りまく。誰に対しても態度を変えないからこそ、あざと可愛い女子が支持されているのではないでしょうか。
誰に対してもあざとい女子と言えば、『失恋ショコラティエ』(フジテレビ系)のサエコさん(石原さとみ)が思い浮かびます。2014年放送のこのドラマが、あざと可愛いブームの火付け役になったと言っても過言ではないと思います。
サエコは、「意識的にでも無意識にでも、人の気を引く努力をしている人が、好かれている」と思いながら生きている女性です。褒められると、「うれしい!」とにっこり微笑み、いつも明るくて前向き。女子の前でも、態度を変えることはありません。小動爽太(松本潤)の妹・まつり(有村架純)の恋愛相談も、真摯に乗ってあげるし、井上薫子(水川あさみ)に嫌な態度を取られたって、悪口を言ったりしない。まさに、全人類に好かれる系のあざと女子なんですよね。最終的には、薫子まで味方につけてしまう魔性っぷり……。
ただ、かつてなら、サエコはヒール役になっていたのではないでしょうか。男がいなくなった途端に、キャラ変するような。しかし、『失恋ショコラティエ』ではそうは描かれていない。「媚びるのなんて、気持ち悪い!」と考える薫子が、どちらかと言えばヒールに位置づけられていたのです(爽太に、「女が女の悪口言うのって、大嫌いだよ」と言われてしまうシーンは切なかった……)。
筆者も、『失恋ショコラティエ』に出逢い、大きく価値観が変わりました。サエコは、どうやったら他人に喜んでもらえるか? と考えながら生きている。ポジティブな方向のモテテクニックだから、自身もハッピーオーラを纏っているんですよね。「メールは、すぐに返さない方がモテる!」なんていう恋愛テクニックも、真っ向から否定していきます。「私は、返したい時にすぐ返しますよ。返事が遅れて喜ぶ人はいないだろうし」と。
爽太と薫子による、こんなやりとりも印象に残っています。
薫子「いかにも男ウケ狙ってますっていうのが分かってて、なんで冷めないのかな」
爽太「いや、だって見え見えだから可愛いんじゃん。見えなかったら、可愛いって思えないよ。男って鈍いからさ、見え見えくらいがちょうどいいんだって」
この、“見えなかったら、可愛いって思えない”という台詞に、大きな衝撃を受けました。こんなにバレバレなアピールをしたら、好きだってバレちゃうかな? とか、1時間後に返信が来たから自分も1時間空けなきゃ……とかそんな面倒な計算は必要ないの!? と。そう考えるようになってから、恋をするのが楽しくなってきました。あざと可愛い生き方って、人を生きやすく前向きにしてくれるのかもしれません。
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