「意味がある」を見つけた桝太一さんの例
アナウンサー業は、「ニュース原稿を読む」「イベントや対談を司会進行する」など、「役に立つ」要素の多い仕事です。そんな典型的な「オールドタイプ」のアナウンサーが、「意味」や「ストーリー」を生み出すことのできる「ニュータイプ」にチェンジできた秘密を、元日本テレビの桝太一さんを例に挙げて考えてみます。
報道番組のキャスターとして視聴者の支持を集め、バラエティ番組では理系の「アサリおたく」として愛されてきた桝さん。この4月から同志社大学ハリス理化学研究所の専任研究所員となり、サイエンス・コミュニケーションを研究するそうです。
桝さんの退社報告コメントの中に、ニュータイプにシフトするための大切なポイントが二つ隠されていました。
「自分の中で共通して考え悩み続けてきたことは、『どうすれば、もっと適切に科学を伝えられて、より良い社会に貢献できるだろう?』という点でした。」
(日本テレビを通じて発表されたコメントより抜粋)
一つ目のポイントは、日々の仕事・生活で感じた違和感や悩みと正面から向き合うこと。ニュータイプが重視する「意味がある」の「意味」とはつまり課題のこと。桝さんは、課題を自らの悩みから発見したのです。
仕事も家事も、ベテランになるほどルーティンワークとして淡々とこなしがちに。「役に立つ」思考しかないと、目の前のタスクをこなす以上の発想をすることがそもそも難しいでしょう。
しかし桝さんは、「科学は正しく社会に伝わっているのだろうか」という自分の悩みから逃げませんでした。そして「科学に対する世間のハードルを外し、科学で社会を変える」という意味を見つけ、その実現のためにサイエンス・コミュニケーションの研究をするという決断に至ったのです。
「40年のうち、科学好きとして学んできた前半と、伝え手として学んできた後半、その2つを組み合わせることで、今後もしかすると自分にしかできない形で社会に貢献できることがあるのではないか、と考えております。」
(同上)
二つ目は、自分の「ストーリー」にフォーカスする勇気を持つこと。誰かに与えられる役割ではなく、自分自身が見つけた意味を追求するのがストーリーです。
社内でも順調にポストを得て、幹部候補となっていると報じられていた桝さん。しかし今後は、自分の時間や能力を「自分にしかできないこと」により多く振り向けていきたいという強い意志が伝わってきます。組織の中で役割をまっとうすることより、自分が悩み考え続けてつかみとったストーリーの方が、自分から強いモチベーションを引き出せると判断したのでしょう。
さらに、桝さんの「ストーリー」は、リアルさとにじみ出る本人のワクワク感により、多くの人の共感と支持を得るだろうと想像できます。ニュータイプのキャリアは、自分のモチベーションアップと他人からの支持が循環する幸福なキャリアでもあります。
人気アナウンサーの大胆な決断には驚かされましたが、「ニュータイプ」にシフトチェンジした彼らから、学ぶことがたくさんあります。私たちもまずは身近なところから、自分にしか見つけられない「意味がある」を探してみませんか。
文 /梅津奏
前回記事「「望まぬ転機をチャンスに変える」自分の現状維持バイアスを外すには?」はこちら>>
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