言いそびれた言の葉たち。いつしかそれは「優しい嘘」にかたちを変える。
これは人生のささやかな秘密の、オムニバス・ストーリー。
42歳、美容医療にハマる③
――残高が350万円!? てことは私、半年で100万以上使っちゃったってこと? どうしよう、やりすぎた……?
夜更けのリビング。夫の慶介はまだ帰宅していない。もういつでも寝室に行ける、という状態で、里香は恐る恐るネットバンキングのマイページを確認していた。
無意識に、今日の仕事帰りに脂肪を減らすためにレーザー施術をしたお腹周りを撫でる。緩んでいたウエストが少しすっきりしているように感じられて、焦る心をいい感じに鎮めてくれた。座ったとき、パンツの上に余計なお肉が乗りはじめたことがとにかく憂鬱で、それが解消されるならば10万円近い出費も必要経費だという気がする。
里香はこれまで、自分の美についてあれこれ語るのは容姿に恵まれた人の専売特許だと思ってきた。
可もなく不可もないレベルの見かけを、40も過ぎてことさら磨きたい! と固執するのも滑稽だろう。キレイになりたいと繰り返すよりも、気にしていませんという顔をしているほうが楽だった。
しかし美容医療の力は偉大だ。おまけにいつのまにか普通のアラフォーである自分の近くにまでやってきた。高い基礎化粧品一式と大差ない値段で、見違えるように肌にツヤが出る。
……ところが少しずつお金を遣っているうちに、あっという間に100万円だ。
しかもこの先はどうしたらいいのだろう。
里香は夕方、優子のクリニックでの会話を反芻する。
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