亡くなった母親のタンスから見つけた5冊の預金通帳。中を見てみると、結構な残高が残っています。しかし、高齢の父親は認知症が進んでいて入院中で、詳しく話を聞けそうにありません。とりあえず銀行に足を運び窓口で相談したものの、渡されたのは相続人全員の署名と印鑑証明書が必要な「相続関係の書類」のみ。認知症の父親には遺産分割の相談はもちろん、書類に署名してもらうことも難しそうです。まさかの財産凍結の危機。こんな時、あなたならどうしますかーー?

認知症の親の預金「子どもなら引き出せる」は大間違い! 家族に待ち受ける“財産凍結”の落とし穴_img0
 

超高齢化社会の到来で、いつ誰がなってもおかしくない「認知症」。認知症を取り巻く問題はたくさんありますが、中でも“認知症の家族とその財産管理”には、多くの人が頭を悩ませています。冒頭のエピソードは、今回紹介する岡 信太郎さんの著書『財産消滅:老後の過酷な現実と財産を守る10の対策』に登場する58歳の男性の事例ですが、筆者の周りでもこのような“認知症の親とお金”にまつわる苦労話が時折聞こえてきます。

では、実際に認知症の親族を持つ人は、財産管理の問題をどうやって解決すべきなのでしょうか? その鍵のひとつとなるのが「成年後見人制度」だと本書は伝えています。ただし、この成年後見人制度も「今日から私が後見人です。親の預金を下ろしてください」とはすんなりいかないのが現実のよう。

一体どんなハードルがあるのか、「こんなはずじゃなかった……」と打ちひしがれる前に知っておきたいその実情について、司法書士の岡さんが教えてくれる本書からご紹介します。

 


“最後の砦”のはずが……なぜか嫌われる「成年後見制度」

認知症の親の預金「子どもなら引き出せる」は大間違い! 家族に待ち受ける“財産凍結”の落とし穴_img1
 

財産が凍結されてしまうと、取り得る対策は基本的に成年後見に限られてきます。成年後見人になると、預貯金の引き出し、相続手続き、施設との契約などを本人に代わってできるようになります。

財産凍結に対する“最後の砦”となるわけですが、制度としては残念ながら未完の状態です。

2000年に介護保険制度との両輪でスタートした成年後見制度。しかしながら、介護保険と比べてその知名度や利用率も低迷しているのが現状です。創設から20年以上経っていても未だ市民権を獲得しているとは言えません。

その理由は、認知症高齢者が減っているからなのでしょうか?

いえ、ご存じのとおりそんなことはありません。高齢化社会の到来にともない認知症患者数は増加の一途を辿り続けています。厚生労働省の将来推計によると、2025年には65歳以上の5人に1人にあたる約700万人が認知症になるとされています。 

認知症高齢者が増えている一方で、制度利用が進んでいない現実……。そのギャップについて理解しなければなりません。 

今一番言えることは、制度利用を敬遠される傾向の方が強まっていることです。“使ってはいけない”“成年後見人に横領される”“第2の財産凍結”などとまで言われ、ここまで避けられる制度もある意味珍しいかもしれません。