みなさんは最近「美術館」に行きましたか? 以前は足繁く通っていたけれどコロナ禍でしばらく行っていないな〜、という人も多いかもしれません。かくいう筆者もその一人です。

あの静けさと没入感。何を考えているかは知らないけれど、思い思いに作品に見入っている人たちのささやかな熱気。そして、意表をついたアートグッズに散財必至のミュージアムショップ。ああっ! 想像したら美術館が恋しくなってきました……。

 

そんな悶々としていたある春の日に手に取ったのが、原田マハさんとヤマザキマリさんの対談を収めた『妄想美術館』という一冊の本。アートを溺愛するふたりの会話には、名作絵画への意外な思い出や、日本や海外のお気に入りの美術館、美術館でのとほほ体験まで、アートがぐんと身近に感じられる話題が盛りだくさんです。

 


美術館で、子どもが泣いたっていいじゃない


読んでいるだけで、美術館にプチトリップできる本書ですが、美術館の醍醐味やはり「実際に足を運んで、感じること」ということを教えてくれるおふたり。美術館から足が遠のいている理由はなんだろう? 美術館ってそもそもどんな存在? そんなことを考えるきっかけになるような、こんな会話を交わしています。

原田 美術館ってみんなが幸せな気持ちでいる場所だと思うんです。あの空気感は言葉にしにくいですが、みんな、幸せになりに美術館に行くと言ってもいいかもしれない。赤ちゃんを美術館に連れて行ってなにがわかるの? とおっしゃる人もいるでしょうが、幸せな空気が溢れている場所へ連れてきてもらっていると感じることが、とても重要です。日本では子どもが泣いたり、騒いだりしたら困るからと、美術館から足が遠のいている親御さんも多いと思いますが、子どもは泣いたり騒いだりするのが仕事だから、いいんですよ。実際、美術館で泣きわめいているお子さんを見たことがないですし、子どもなりに楽しい空気が流れている場所だと感じているはずです。

ヤマザキ イタリアに引っ越してからは、親族とごはんを食べたあとに、「展覧会に行ってみようか」と自然な流れで美術館へ行くことが多かったですね。ハイソな家庭でなくても、日曜日の過ごし方として、美術館へ出かけていく。日本でも話題のお店ができたら、行ってみようかってなりますが、あの感覚でふらっと美術館に行くのが当たり前の生活をしていると、大人になっても自然とアートに関心を持つようになりますよね。


ここで筆者が反省したのは、美術館について「あの静けさ」と回想してしまったこと。そもそも小さな子どもを入館制限しているところをほとんど聞いたことがありませんし、バリアフリーでベビーカーのまま入館できたり、授乳室やオムツ替えシートを完備していたりするところも多数あります。実は育児中のママ・パパにも優しいのが美術館。そんなことを、うっかり失念していたことに気づきました。

 

ひとり教養を高める目的でなくても、ふたりきりのデートでなくても、家族みんなでふらり立ち寄っていい。数々の美術館を見てきたおふたりにそう言ってもらえると、なんだかほっとした気持ちになります。