パリのアパルトマンの窓から見る、愛の国フランスに住む日本人の恋愛模様、不倫、妊娠、パートナーや家族の在り方とは……。フランス在住の作家・パリュスあや子さんによるミモレ書き下ろし連載小説の第4弾がスタート!

 
あらすじフランスで年下の夫・リュカの子どもを妊娠した蘭(らん)。夫婦生活や体調の変化に戸惑いながらも、だんだんと母親となる覚悟が芽生えはじめる。妊娠も後期に入り、夫婦二人の最後のヴァカンスを楽しんだりしていた。
「お腹を痛めて産んでこそ我が子」フランス人には説明できない、日本の精神論 _img0
 

「プティット・クルヴェット」(9)

9.


九月初旬、久々に訪れた産院は、相変わらず「ストライキ中」だった。

血液検査と尿検査はしたものの、今回も内診なし。あと一ヵ月少しで出産というのに、悠長というか、放置というか……

ようやく身体が鉄剤に慣れたのか、この一ヵ月で急激に体重が増えていた。食欲も増したが最近は胃酸が上がってきて胸焼けがひどい。脚の付け根の痛みも悪化していると相談すると、着圧ソックスも含めた処方箋を出してくれた。やはり訴えれば快く動いてくれる。

「良い経過ですね。今日はこの後、麻酔科医と面談をしてください」

入院に必要なもののリストも渡され、いよいよかとテンションを上げながら麻酔科へと移動すると、親しみを感じさせる若い医師が無痛分娩の局部麻酔についてリスクを含め説明してくれた。

毎度のことながら、わかったような顔でふんふん頷き、やり取りはリュカに任せる。