vol02. アソースメレを訪れて
「今日のコーデ」の私服姿にファンの多いエディター・松井陽子さん。松井さんのスタイリングにもよく登場する「もはや体の一部のよう」という最愛のファッションアイテムを、毎月お届けする連載企画。前回に続いて、今回もアソースメレのストールをクローズアップ。ディレクターの大谷繭子さんと、生産管理を担当する長谷川さんにお話を伺いました。これからの季節に頼りになる、ベルギーリネンのストールの魅力に迫ります。
初めてのベルギーリネンストール
選んだのは、黒でした
前回もお伝えした通り、私にとってのはじめてのアソースメレのストールはベルギーリネンフリンジストールでした。一目惚れして、どうにかこうにか手に入れたのを覚えています。
色は黒。美しく洗練されたニュアンスカラーが揃う中、黒に気持ちが向いたのは、明確でブレない色ゆえの存在感に惹きつけられたから。そして、黒のリネンストールなんて見たことなかったから!
その黒をより強いものにしているのが、独特の厚みが生むざっくりとした、でも柔らかなテクスチャー。そして周囲を囲む表情豊かなフリンジのディテールでした。首元に巻くだけで、自然な立体感が生まれ、全身の印象がパッと変わる。そして、なんだかとってもこなれて見える! そう、そのボリューム感がとっても新鮮でした。
巻くだけでなく、ただ肩の上に乗せているだけでもしゃれていて、夏にはアウター感覚で。仕事の日には冷房の効いた電車にも、休日のビーチにも、本当によく一緒に出かけています。カゴバッグにポンと乗せた時のそのサマも可愛くて、夏になるとワンセットにして持ち歩いています。
3年ほど前だったか……。あの時手に入れることができて本当によかったなってつくづく思っています。その1枚があるとないとでは佇まいの雰囲気が違う。一枚の生地なのにとても懐が深くて、とても特別な存在です。
サマになるのは、
ちゃんと”強さ”があるから
私が今季チェックしたのは、このストール。ブラウン? ベージュ? の絵具をひとしずく混ぜたような、素肌の色にすっと馴染むニュートラルなピンクです。素肌の延長線上にあるから色と色のつなぎ役にもなってくれますし、挑戦カラーを合わせる時に顔まわりに置いておけばクッションにもなってくれます。ピンクと言うと照れちゃうけれど、このトーンなら自然に身につけられます。
独特の個性を放つ柔らかなハリと、しっとりと落ち着くいい意味での重み。唯一無二といってもいいその肉厚感は、通常はジャケットやブルゾンなどに使用される、しっかりとした太さのある糸を使っているから。
その質感を生むために使われているのが、旧式のシャトル織機。山梨県の富士吉田にある工場の、日本にはもう限られた数しかない機械でゆっくりと織られているのだそう。1台の機械で編めるのは、1日わずか4、5枚。時間をかけて編むことで糸と糸の間に隙間ができ、それがこの特別な風合いを生む秘訣でもあります。糸が太い分途中何度も糸を替える必要があって、その作業は職人さんがつきっきりで行うことに。
大量生産のための最新式の織機は超高速化していて、旧式のものと比べた時のその速度の差は、長谷川さんいわく「新幹線と自転車くらい」なのだとか! 生産を始めるにあたり、まず最初の苦労というのが「工場の方の理解を得ること」だったと言うのにも納得です。
そうやって織られた生地は、反物のまま群馬県桐生市の染めの工場へ。美しいカラーニュアンスと表面感を出すためにここでも特殊な方法を使用しているそうです。その後、仕上げのフリンジのカットを。それも職人さんが一枚一枚丁寧に手作業で行い、ようやく商品として完成するのだそう。
ストールといえば間違いなくそうですが、アソースメレのストールは既存のものとは異なるアプローチで生み出されています。ディレクターの繭子さんと長谷川さんの「作りたい」から始まり、職人さんの知恵と経験が重なり、そして両者が歩み寄って数々の試行錯誤が行われる。そして、そのすべてが「アソースメレの特別」につながっていることを、今回改めて教えてもらいました。
強い存在感のものには、やっぱり理由がある。愛を感じるほど好きなものに宿る「作り手さんの情熱」を深く実感することができたことが、とてもとてもうれしかったです。
「そんな特別なことはなにもなくて、ひと巻きしたら、右端を首元の輪の中に、下から通して引っ張り出してあげるだけ。そうするとフリンジがランダムに現れて、顔まわりが華やかになるんです。ただ巻くだけよりも立体的になりますし、全身に奥行きが生まれます」
なるほど、簡単! シンプルなワンピースなど、装いがすっきりし過ぎてしまう夏に、この技はとっても有効です。そして、いろんなアレンジでおしゃれがまた広がる。そう思うと楽しくなりますし、ある意味とってもサスティナブルなアイテムですよね。長く使うって、一番シンプルで、誰にでもできるアプローチだとつくづく思います。
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