ロシアのウクライナ侵攻によって、新興国を中心に食糧危機が懸念されています。なぜウクライナで戦争が起こると食糧危機に陥るのでしょうか。

ロシアとウクライナは穀物の輸出大国として知られており、とりわけ小麦については世界の輸出の3割を占めています。ウクライナは戦争によって国土が荒廃しており、今年の出荷は絶望的と言われています。ロシアは一方的に攻めている側ですから、国土が荒らされているわけではありませんが、各国が経済制裁を行っているため、ロシア産の小麦も輸出が滞っていると言われます。

ウクライナ・ハルキウ州での小麦の収穫の様子(写真は2017年)。写真:ZUMA Press/アフロ

輸出の3割を占める地域からの出荷が滞れば、当然のことながら品不足となり、あっという間に価格が上昇します。昨年との比較で小麦価格はすでに2倍になっており、経済力のない国にとっては、必要な量を確保するのが難しい状況です。

 

今、小麦不足がもっとも深刻なのは中東地域と言われています。中東はロシアに近く、欧州と比較すると経済力が低いことから、価格が安いロシア産やウクライナ産の小麦を大量に輸入しています。

日産のカルロス・ゴーン元会長の逃亡先として知られるレバノンは、近年、経済的に苦しい状況にあり、激しいインフレが起こっていました。不運なことに、首都ベイルートで大規模な爆発事故があり、国内最大の穀物貯蔵庫が破壊されたことで、同国には小麦の備蓄がほとんどありません。報道によると、店頭からは多くの食品類がなくなっているそうです。

同様にエジプトやイラン、イエメンなどでも小麦不足が深刻になっていますし、南米のペルーでも食糧不足から大規模なデモが発生しました。イエメンは中東でもっとも貧しい国のひとつですから、場合によっては深刻な飢餓に陥る可能性もあるでしょう。

しかしながら、中東で小麦が極端に不足するというのは、少々、不思議な話にも思えます。というのも、今の中東地域は、人類最古の文明であるメソポタミア文明が栄えた場所として有名だからです。歴史の教科書に何度も出てくるように、メソポタミアはチグリス川とユーフラテス川に挟まれた肥沃な地帯であり、そうであるが故に、もっとも早く農耕文化が確立したとされています。つまり中東というのは、もともと小麦がたくさん取れる地域なのです(中東では小麦の自生もよく見られます)。

実際、かつての中東では多くの国が小麦を自国で生産していました。では、なぜ外国に頼る状況になったのかというと、皮肉なことですが、経済成長で各国が豊かになったからです。

 
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