あんまり先を見据えて計画するよりも、その日その日を楽しんで


50代になって、年齢の「数字」は特に意識はしなかったけれどーーと小林さんは続けます。

「元気でいろいろバリバリできるのは、あと何年くらいだろう、なんて、なんとなく終わりを見据えるような体感はあって。<どういう風に年取っていきたいか>みたいなのを考えるのはとても現実的なことだと思ってきました。もちろん健康は大事。あとは、一人で死ぬ覚悟をちょっとずつ持たなきゃいけないなって。口では『年取ったら友達同士みんなで住めればいいね』って言うけど、そんなのなかなかできないですよ、現実的には。それでももし友達とか、親身になって手伝ってくれる人がいたら、本当に助かるしありがたいし、私も必要とされたら手伝いたいと思います。つまりこれから大事なのは、健康と覚悟と友情かな。でも世の中もどうなるかわからないし、あんまり先を見据えて計画するよりも、その日その日を楽しんで、いつ死んでもいいようにって思っています」

【小林聡美】50代から大事なのは、健康と覚悟と友情と。奇跡を受けとる心の柔らかさも_img4

 

日々を楽しむそんな小林さんの姿は、やっぱり主人公・芙美の姿に重なります。隕石が当たるような「何万分の一の奇跡」は、待っていても決してやってきてはくれません。それがなくても幸せに暮らす方法を、小林さんも、芙美も、知っているような。

「いえいえ、私が教えてほしいくらいなんですけど(笑)。きっと『こんなことがあったらいいな』って思い描く楽しみはあってもいいし、キラキラした憧れみたいなものは持ってたほうがいいと思うんです。でもそれにとらわれて『なのに私には奇跡なんて全然起こらない』って思っちゃうと、なんか違ったほうに心が偏ってしまいそうな気がします。心の柔らかさみたいな、そういうのが大事かもしれないですよね。思い込まないで、目の前に起きたことをプレーンなまなざしで受け止めてみる気持ち、それが日常を奇跡に変えてゆくきっかけになるのかもしれないですね」

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小林聡美 Satomi Kobayashi
1965年生まれ。東京都出身。映画デビュー作『転校生』(82)をはじめ、『かもめ食堂』(06)や『めがね』(07)、人気ドラマシリーズ「やっぱり猫が好き」(88〜91)など数多くの映画やドラマに主演。映画『紙の月』(14)では第38回日本アカデミー賞優秀助演女優賞、ブルーリボン賞助演女優賞を受賞。近年の出演は、映画『閉鎖病棟 −それぞれの朝−』(19)、『騙し絵の牙』(21)など。また『聡乃学習』(19)はじめエッセイ本などの著書も多数出版している。

 


小林聡美さん、変わらぬ透明感と深みを増す魅力
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<映画紹介>
映画『ツユクサ』
2022年4月29日より公開中

【小林聡美】50代から大事なのは、健康と覚悟と友情と。奇跡を受けとる心の柔らかさも_img7

©2022「ツユクサ」製作委員会

とある小さな田舎町で暮らす芙美(ふみ)。
気の合う職場の友人たちとほっこり時間を過ごしたり、うんと年の離れた親友の少年と遊びに出かけたり、ある日、隕石に遭遇するというあり得ない出来事を経験したり。そんなふうに日々の生活を楽しく送るなかで、ときおり見え隠れする芙美の哀しみ。彼女がひとりで暮らしていることには理由があって、その理由には“ある哀しみ”があって、そして草笛をきっかけに出会った男性と恋の予感も訪れて……。

監督:平山秀幸
脚本:安倍照雄
出演:⼩林聡美、平岩紙、斎藤汰鷹、江⼝のりこ、桃⽉庵⽩酒、⽔間ロン、鈴⽊聖奈、瀧川鯉昇、渋川清彦、泉⾕しげる、ベンガル、松重豊
配給:東京テアトル
https://tsuyukusa-movie.jp

©2022「ツユクサ」製作委員会
 


撮影/Junko Yokoyama ( Lorimer management+ )
スタイリング/藤谷のりこ
ヘア&メイク/北一騎(Permanent)
取材・文/渥美志保
構成/川端里恵(編集部)