「フランスのスーパーなんていい加減なんだ!」

 

「ちょっと! その鶏肉、臭くない?」

「そうかな、こんなもんじゃない? 真空パックだったし、昨日買ったばっかりだよ」

 


私の言葉を疑うように、リュカは骨つきの鶏もも肉に高い鼻を近づけた。心配しすぎだと一笑に付すも「ホントに傷んでないかな」となかなか引き下がらない。眉根を寄せるリュカを横目に、調味料を揉み込んで冷蔵庫へ入れてしまう。

「消費期限もまだまだだし、大丈夫だって」

ようやく納得がいったのか、渋々という感じで引き下がったリュカとお茶タイムにしながら、久実子に産院の報告メールを打つ。体調が安定せず眠れない日もあったらしいが、彼女もまた総じて順調にきているようだ。

「だけど一昨日のメッセージ、まだ返信ないんだよね」

いつもならすぐリアクションがあるのに、なにかあったのではと、最悪のケースを想像して慄(おのの)いてしまう。

「既読にはなってるんでしょ。忙しかったら二日返事がないくらい普通だよ。僕は鶏肉のほうが心配だ」

こいつ、まだ引きずっていたのか……苦笑するが、こういう人だから私は安心して妊婦できてるんだよな、といつのまにか含み笑いに変わっていた。

「やっぱり止めよう!」

オーブンからローストチキンの良い匂いが立ち上り、うきうきと焼き具合を確認していたら、いきなりリュカが叫んだ。

「真空パックでも乱暴に扱われて破れてたかもしれない。すぐに冷蔵庫に陳列されたかもわからない。知ってるだろ、フランスのスーパーなんていい加減なんだ! 信用していいのか!?」

「……じゃあこの肉、どうすんの?」

「もしこの期に及んでチキンのせいでお腹の子供になにかあったら、絶対一生後悔する。お願いだッ!」

悲劇のヒーローさながらに膝をついて訴えるリュカを前に、私は無言でオーブンの火を止め、てかてかパリッと焼けた肉を未練たらしく睨め付けた。

「……じゃあ夕飯、なに食べんの」

「今すぐ僕がローストチキンを買ってきます!」

駆け出したリュカに背を向け「スーパーはだめで、肉屋のチキンは信用すんのかよ」とぶつぶつ怒りを垂れ流す。今夜のご馳走をゴミ箱に投入するというのは、これが最善の選択肢だと理解していてもなお、こんなにも悲しいのか。

「こりゃ豪勢だね!」

でもリュカの買ってきた「放し飼いで育ったビオチキンの丸焼き」は美しく、悔しいが味も満点で、結局すっかり満足してしまった。