世代の違う友達をつくることは難しい。年齢を経るとそう感じることも。ジェネレーションギャップで会話が続かなかったり、相手の若さに気後れしたり。最近、20歳以上若い友達はできましたか?
芦田愛菜さんと宮本信子さんの共演で実写映画化の『メタモルフォーゼの縁側』。17歳と75歳が漫画を通じてつながる物語です。
75歳の市野井雪(いちのい ゆき)は一人暮らし。夫が亡くなり二年、普段接するのは自宅で開いている書道教室に来る子どもと年寄りだけ。あとは孤独な時間を過ごしていました。ある日、夫と昔よく行った喫茶店が閉店し、ショックを受けた彼女は本屋に立ち寄ります。そのコミック売場で一つの作品に出逢うのでした。
久しぶりに読んだ漫画は、なんとBL(ボーイズラブ)! 男の子同士が思わぬ展開になる様子に、頬を赤らめながらドキドキする雪でした。
日は変わり、月に二回の通院の日。薬をもらうだけでも半日がかりで、長い待ち時間で読むのはほとんど答えを覚えてしまったクロスワードパズル誌。
でも、今日は『君のことだけ見ていたい』の2巻を買ってきた雪。いつもなら名前が呼ばれるまで待ちくたびれるはずなのに、あっという間に時間が過ぎました。
続きが気になり、帰りに3巻を買おうと本屋に再び立ち寄ると、前と同じ女性店員が対応してくれました。棚になく、探してもらうも「すみません、在庫切れみたいですけど」と言われ、雪が「注文できます?」と答える前に、その店員は何かを言いかけてやめました。
この店員の名は、佐山うらら。17歳の高校生でバイトをしており、母親と二人で暮らしています。ボサボサの髪で通学する彼女は気になる同級生に話しかけることができない引っ込み思案な性格です。「私っていつも見てるばっかりだ」。
通学路で前を歩くツヤツヤの髪の女子生徒や、推しのアイドルを教室で熱く語る同級生たちをうらやましく思うも、仲間に入れずにいます。バイト中に「学校で社交的になるには?」という悩みを打ち明けて笑われる始末。
実は、彼女はBL漫画が好きだったのです。『君のことだけ見ていたい』も自宅に全巻そろえていました。
雪が注文した3巻が入荷した時、うららは雪に入荷連絡をします。受け取りに来たとき、雪が漏らしたBL漫画についての想い。
うららは雪の言葉にグッと心をつかまれ、自分から3巻の表紙について説明を始めます。すると、会話が盛り上がり距離が近づいた二人。「もしよければなんだけど」と、その勢いで雪はうららをお茶に誘います。その時の言葉にうららはまた心を動かされるのです。
思い描いていた相手とは随分違うけれど。
ふうふう言いながら階段を上がる老女の雪を見ながら、うららは嬉しくなるのでした。
「心惹かれるもの」を語ることで年齢を超えてつながった二人。互いの日常を過ごしているだけでは出会えなかったけれど、想いを語ったことで共感が生まれ、もっと語りたくなる関係になれました。
この後、『君のことだけ見ていたい』のカップルについて、語り合う雪とうららは、社会的属性を背負うことなくただの「BL好き女子=腐女子」でいられる場所を見つけました。それがタイトルにもある、雪の自宅の「縁側」。まさに二人にとってのサードプレイスなのです。
「好きなもの」が同じなら年齢関係なく友達になれるんだな、と心温かく感じる本作。でも、そこには秘訣がありそう。歳上だからといって雪は上下関係を作ろうとしていません。自らを「おばあちゃんだから」と言うシーンはありますが「人生の先輩」や「上から目線」になることなく、少女のような顔で必死にBL漫画の感想を語り、知ったかぶりをせず素直に質問します。フラットに接することで、年齢差を感じさせないのかも。そして、そんな雪を、うららは迷いつつも同人誌即売会に誘ってくれるのです。「歳下の女性が遊びに誘いたくなる女性」ってミモレ世代の理想像の一つではないでしょうか。
75歳にして初めてBL漫画の世界を知った雪、人見知りだったのに自分から話しかけることができたうらら、二人は出逢った後もさらに深く「メタモルフォーゼ(変容)」していきます。
年を取って友達が少なくなった、作れなくなった、と寂しく感じている人は自分の「心惹かれるもの」「好きなもの」を少しでもいいので誰かに素直に語ってみたら、雪のように予想外のメタモルフォーゼが起きるかもしれません。
【漫画】『メタモルフォーゼの縁側』第1話を試し読み!
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『メタモルフォーゼの縁側』
鶴谷 香央理 (著)
ふと立ち寄った書店で老婦人の雪が手にしたのは1冊のBL漫画。75歳にしてBLを知った老婦人と書店員の女子高生が織りなすのは穏やかで優しい、しかし心がさざめく日々。芦田愛菜さんと宮本信子さんの共演で実写映画化。
作者プロフィール
©鶴谷香央理/KADOKAWA
構成/大槻由実子
編集/佐野倫子
鶴谷 香央理
2007年に『おおきな台所』でデビュー、同作品で第52回ちばてつや賞準大賞を受賞する。『メタモルフォーゼの縁側』(KADOKAWA)が初の単行本。初連載作品の『don't like this』(リイド社)やさまざまな媒体で描いてきた3作品を収録した短編集『レミドラシソ 鶴谷香央理短編集 2007-2015』(KADOKAWA)も発売中。
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