父親の愛を求め、苦しんでいた


本作では、両親の離婚後、行方すらわからなくなってしまった父親によって、オードリーは「自分は捨てられた」「愛されなかった」という強烈なトラウマを植え付けられた様子が描かれています。

世界的な女優となった後に再会した父親とオードリー。しかし彼の反応は薄かったよう……。©️2020 Salon Audrey Limited. ALL RIGHTS RESERVED.

世界一愛された女優が、自分の父親には愛されず、その愛を生涯手に入れられなかった。

よく、男性関係がうまくいかない女性は、その心理を深掘ると父親との関係に起因すると聞きます。父親と娘の関係が密接で、いわゆる「子離れ」がうまくいかなかった場合には、男性に対して必要以上に我儘に振るまったり、挑発的な言動や行動で相手の愛情を試したり。

オードリーの場合は、父親を失った傷が克服できず、相手を「失う」「また捨てられる」という恐れに囚われ、夫婦関係をうまく持続できなかったようです。

あれほど美しく、世界中の人気と名声を手に入れたオードリー。彼女ほどの成功を収めれば、過去も克服できるのでは......と思ってしまいますが、女性にとって、父親との関係は非常に重要なものなのだと改めて痛感しました。

プライベートがうまく行っていない時のオードリーは表情も曇りがちで、彼女も一人の人間なのだと気づかされます。

 


「苦しみ」を「愛」に変えた 


けれどオードリーが素晴らしいのは、その痛みや苦しみを「愛」に変えたこと。


「得られなかった愛を愛するという行為に変えた。だから今でもあんなに愛されるのだと思う」「彼女自身は愛を求めて苦しんでいた。だからこそ愛を重んじていたんだろう。人間というものを本当に愛していた」「いつも自分に欠陥があると感じていたようだが、そんな心の傷を愛に変化させた」


本作の中で、近親者が口々にオードリーを称えるのがとても印象的でした。

“内面の美しさ”は歳を重ねるほど外見に現れるとよく聞きますが、まさにオードリーがそれを体現していると思います。

晩年、オードリーはユニセフ親善大使として活動し、シンプルなファッションで世界中と飛び回りますが、その笑顔は生き生きと穏やかで、見ているこちらもホッとしました。

愛に飢え、愛を求めて心に問題を抱えてしまったら、そんな時こそ、大きな解決策となるのは「人を愛する」ことなのかもしれません。

トークイベントで犬山紙子さんも「私は自分の心が苦しい時に寄付するようにしています」と仰っていましたが、自分を癒やし満たせるのはおそらく自分だけ。


「彼女は愛する力を持っていた。世界中の子供を愛し自分自身の子供も愛した。そして人生の最後に自分自身を愛した」


女優として築いた名声を恵まれない子どもたちのために使い、大きな功績を残したオードリー。

©️2020 Salon Audrey Limited. ALL RIGHTS RESERVED.

女優としてスクリーンを飾る彼女はもちろん美しいですが、晩年、世界中の子どもたちに囲まれた姿も素晴らしい魅力を放っていました。

女性としての人生、歳の重ね方など、学ぶべきことが多いドキュメンタリー映画です。
 


美しく華やかな女優としてのオードリーの姿と、「無条件で愛するだけよ」という言葉とともに優しい表情で子どもを抱きかかえる姿。晩年、ユニセフ親善大使として人生を捧げたオードリーの人生がいま、解き明かされるーー。

『オードリー・ヘプバーン』は、TOHOシネマズ シャンテ、Bunkamura ル・シネマ他全国ロードショー。

<映画紹介>
『オードリー・ヘプバーン』

絶賛公開中
STAR CHANNEL MOVIES 
©️2020 Salon Audrey Limited. ALL RIGHTS RESERVED.

 

幼少期に経験した父親による裏切り、ナチス占領下のオランダという過酷な環境で育った過去のトラウマ、奪われたバレエダンサーへの夢、幾度の離婚……劇中では、過去の貴重なアーカイブ映像とともに、近親者によって語られるインタビューによって、これまで隠されてきたオードリーの一人の女性としての姿が描き出されていく。晩年は、ユニセフ国際親善大使として自身の名声を善のために尽くし、慈善活動を通して大勢の人たちに癒やしと救済をもたらした。本作では、リチャード・ドレイファスやピーター・ボクダノヴィッチ監督ら俳優時代の仲間、そして息子や孫、家族ぐるみの友人など、プライベートに迫るインタビュー映像、貴重な本人の肉声によるインタビューがふんだんに盛り込まれ、愛情と寛容の力の証として存在する、極めて特別なひとりの女性の姿を、鮮やかにスクリーンによみがえらせている。

監督:ヘレナ・コーン
キャスト:オードリー・ヘプバーン、ショーン・ヘプバーン・ファーラー(オードリーの長男)、エマ・キャスリーン・ヘプバーン・ファーラー(オードリーの孫)、クレア・ワイト・ケラー(ジバンシィの元アーティスティックディレクター)、ピーター・ボクダノヴィッチ(アカデミー監督賞ノミネート)、リチャード・ドレイファス: アカデミー賞受賞俳優 (『アメリカン・グラフィティ』、『ジョーズ』)他
振付:ウェイン・マクレガー
バレエダンサー:アレッサンドラ・フェリ、フランチェスカ・ヘイワード、キーラ・ムーア
100分/2020年/イギリス/5.1ch/ビスタ/字幕翻訳:佐藤恵子/原題:“Audrey”
配給:STAR CHANNEL MOVIES 協力:(公財)日本ユニセフ協会 
© 2020 Salon Audrey Limited. ALL RIGHTS RESERVED. 
公式サイト:audrey-cinema.com
公式Twitter ‎@audrey_cinema


構成・文/山本理沙
 

 

前回記事「強烈な「美しさ」の理由。世界一愛された女優の“光と闇”を描いた映画『オードリー・ヘプバーン』」はこちら>>

 
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