発達障害を自覚すれば生きづらさが解消されるとは限らない


──世の中には、発達障害であろうとなかろうと、生きづらさを抱えている人が結構いると思います。自分に無理を強いない生き方、そして幸せになる生き方を模索してきたお二人が、そういう方々にアドバイスするとしたら?

ダイスケ まず、人の目をあまり気にしないでと言いたいです。やってみたいと思うことがあっても、人の目を気にしたとたんにトーンダウンするじゃないですか。よく「好きなことが見つからない」と言う人がいますが、本当は見つけているけど、いろいろ気にしすぎて「ない」ことにしているように僕には見えるんですね。とにかく、自分が「これだけは譲れない」「心から好き」と思うことを徹底して突き詰めていけば、何らかのかたちで花開くときが来ると思います。あと、一つでも打ち込めるものがあると、自尊心や承認欲求が満たされるので、生きづらさが解消されるのではないかと思います。

ちゃんまり 私は結婚6年目にして自分がASD(自閉症スペクトラム、アスペルガー症候群)だとわかったのですが、その診断結果に引っ張られて自分の可能性を狭めてしまったところがありました。ASDだからあれもできない、これもできない、という風になってしまって。だから、生きづらさの原因を探るために発達障害の診断を受けようと考えている人は、もしそうだったとしても発達障害という部分にとらわれないでほしいです。そうならないために、あえて診断を受けないのも手だと思います。

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楽しかったと思える日を、死ぬまでにどれだけ作れるか


──ちゃんまりさんは、もうASDの呪縛から逃れることはできたのですか? YouTubeでは、かなり本気モードで格闘技に挑戦されていましたよね。

ちゃんまり 格闘技は、周りの人に私のことを一生懸命頑張っている人だと見てほしくて始めました。これは自分自身への反省を込めて言うのですが、世の中には発達障害を盾にして「自分を理解してほしい」と要求する人が多い気がするんです。でも、発達障害を理解してもらうより先に、理解してもらえるような人間になることが大事だと思って。まずは「ドジでも許してあげよう」「助けてあげよう」と思われることが大切で、そう思わせる人間になるためには、何でもいいので一つのことを一生懸命やってみようと。そうすれば、自分のことをちゃんと理解してくれる人が出てくるのではないか。そういう思いでしたね。

 

──確かに、一生懸命に頑張っている人を見ると応援したくなりますね。ただ、「これで食べていけるのか?」という経済的な不安から、好きなことに一生懸命になれない人も多いかもしれません。

ダイスケ 日本には生活保護もありますし、たとえ好きなことで行き詰ってもそう簡単には死なないと思います。それがわかっていても踏み切れないのは、「生活保護をもらうのが恥ずかしい」とか、結局は人の目が気になっているのではないでしょうか。でも、税金を払っている以上、社会保障を受けるのは当然の権利ですよね。ですから、社会の「当たり前」に自分を当てはめない方がいいと思います。この年齢だとこのくらい稼いでないといけないとか、この大学を出たからこの規模の企業に就職しないといけないとか。ああいうのって、突き詰めれば誰かが作った虚像じゃないですか。幸せになることを考えれば、楽しかったと思える日を、死ぬまでにどれだけ作れるかが重要ですよね。ですから、好きなことや楽しいと思えることにたくさん挑戦してほしいと思います。後回しにはしないでほしいですね。

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『ADHDの旦那って意外と面白いんよ 本気で発達障害に向き合った夫婦の物語』
著者:ナカモトフウフ 講談社 1540円(税込)

沖縄での暮らしぶりを紹介する動画を配信し、人気を集めているYouTubeクリエイター、ナカモトフウフによるエッセイです。夫・ダイスケさん、妻・ちゃんまりさんそれぞれの視点から、ADHDとの向き合い方、夫婦生活の悩みやその解決法を、包み隠さず語り尽くします。ADHD以外の人とのつき合いでも応用できそうな事例が満載で、コミュニケーションの参考書としてもお勧めの一冊です。


取材・文/さくま健太
 

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