親しい人と会えなくなったり、仕事を失ったり。コロナ禍でそれまで頼りにしていた人やものとのつながりが断たれ、改めて自立する(=何かに依存しない)ことの大切さを実感した人は多いのではないでしょうか。

でも、自立するといっても、それまで意識してこなかった人にはどうやればいいか皆目見当がつかないと思います。そこでお勧めしたいのが、作家・下重暁子さんの言葉を集めた『孤独を抱きしめて 下重暁子の言葉』という書籍です。

女性の社会進出が一般的でなかった時代から自立した生き方を実践されてきた下重さんの言葉の数々は、自立するために必要な心がまえを知る手がかりとなるでしょう。今回は、その一部を、「生き方」「夫婦・家族」「美しさ・加齢」という3つのカテゴリーに分けてご紹介します!

 

下重暁子 (しもじゅう あきこ)さん:
1959年、早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。アナウンサーとして活躍後、1968年に退局し民放キャスターを経て、文筆活動に入る。公益財団法人JKA(旧・日本自転車振興会)会長などを歴任。現在、日本旅行作家協会会長を務める。『家族という病』『極上の孤独』(どちらも幻冬舎)、『天邪鬼のすすめ』(文藝春秋)、『鋼の女(ひと) 最後の瞽女(ごぜ)・小林ハル』(集英社)、『人間の品性』(新潮社)、『死は最後で最大のときめき』(朝日新聞出版)など著書多数。

 


自分が自分を縛っているだけ──人間の生き方について
 


人間の原点は「孤」でしかありません。
「孤」を受け入れられないと、一生誰かを頼って暮らすことになります。

──『週刊ポスト』(小学館)2020年2月28日・3月6日合併号「[巻頭言]下重暁子 60歳を過ぎたら『極上の孤独』を目指しましょう」より


人間の原点は「孤」──下重さんは、親子の間柄であっても同じことが言えると考えていました。「親子といえども別の人間だからこそ、同居するのはできるだけ短期間にして、ある程度身の回りのことができるようになったら、子供とは別居すべきです。ひとりになることで親も子供も自分と向き合い、成長することができます。『死ぬまで一人』という覚悟を持つことです」。

「死ぬまで一人」と、下重さんがここまで厳しく「孤」を主張する背景には、幼少期の特異な体験がありました。「小学生の2・3年を結核で自宅隔離、敗戦で180°変っていく大人達を目の前にして、自分だけがたよりだと自覚した」。


周りが縛っているというのは嘘ですよ。
自分が自分を縛っているだけ。

──『STORY』(光文社)2020年7月号「コラム 時代にかかわらず、産む産まないは個人の選択。子どもを持たなかった人生に悔いはないです。下重暁子さん(作家・83歳)」より


「孤」を受け入れることとは、自分が他の誰でもないという「個」を意識することなのかもしれません。そうすれば他の「個」も受け入れられるようになると、下重さんは考えていました。「個として立ち、自分が本当に思っていることを言い、自分で決めて生きていく。そして個の違いを互いに理解し合い、尊重し合うのが社会です」。このことを知っていたからこそ、「周りが縛っているというのは嘘ですよ」と、真実を見抜くことができたのでしょう。


こちらから近寄ったり、合わせたりしてはダメ。
のけ者にされても毅然とした人には、人が近づいてくる。
毅然とした人は美しく見えるんです。

──『ゆうゆう』(主婦の友社)2019年11月号「特集/すっきり生きる、心地よく暮らす 年齢に縛られることなく『自分は自分』で毅然と生きていけばいい 下重暁子さん/作家」より


もちろん、「個」を貫いていくと、いわれなき誹謗中傷に直面することもあるでしょう。それは、下重さんが身をもって知っていることでした。また、その苦境が乗り越えられるものであることも分かっていました。「最初のうちは『あいつは変わってる』とか『わがままだ』とかいろいろ言われるんです。でもしばらくそれを、ちゃんと自分で意識してやっていくと『あれ、こいつはちょっと違うな』というふうに、周りの見る目が変わってくる」。