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政府がスタートアップ企業を支援するため、創業5年未満の経営者の個人保証(※)を免除する施策を検討しています。日本の場合、中小零細企業の経営者は、あらゆる場面において個人保証を求められ、無限責任を負うのが当たり前という環境でした。こうした商習慣が、日本のベンチャー育成を阻んでいるとの指摘があり、今回の施策はこれを改善しようという試みです。

※個人保証:企業が金融機関から融資を受ける際に、経営者やその親族などの「個人」が会社の融資保証をすること

 

一連の取り組みには、企業家の負担を軽減する効果がありますが、日本でベンチャー企業が育たないのは、これだけが原因ではありません。今回の施策をきっかけに、もっと幅広い環境整備が必要だと筆者は考えます。

日本の場合、新しく会社を立ち上げた経営者は、多くの場面で個人保証が求められます。銀行から融資を受ける際にはもちろんのこと、オフィスを借りる時や、コピー機をリースする時ですら、すべて個人保証を入れなければなりません。今ではかなり緩和されましたが、サラリーマンを辞めると賃貸住宅を借りることができなくなったり、クレジットカードを作れなくなるケースも珍しくありませんでした。筆者もかつて起業した経験があるのですが、サラリーマンとして会社に在籍している間に、転居やカードの申し込みなど、すべての手続きを済ませた上で会社を立ち上げました。

本来、企業の経営と個人は別であり、銀行などは事業に対して資金を融通するというのが原理原則です。実際、大企業の場合、経営者であっても個人的な責任を負う必要はありません。ところが、中小企業の場合、両者は一体とされ、創業した経営者が無限責任を負うというのが当たり前でした。当然ですが、経営に失敗したり、お金が支払えなくなった場合には自己破産という道が待っています。 

中小零細企業の経営者に対するあまりにも厳しい環境が、ベンチャー企業の活動を阻んでいるとの指摘が以前から存在しており、こうした声を受けて、創業間もない企業の経営者に対する個人保証の免除に乗り出したわけです。

新しい支援策では、日本政策金融公庫が個人保証不要の期間について、現行の創業2年未満から2倍程度に伸ばす方向で検討が進められており、信用保証協会も、創業5年未満の企業に対して保証を不要とする制度を新設します。民間の金融機関に対しては、情報が適切に開示されている場合、個人保証を取らないよう文書で要請する方針です。

確かに一連の措置は、起業家の負担軽減には繋がりますが、これらを実施したからといって日本におけるベンチャー企業の活動が一気に拡大するわけではありません。日本において新規事業が不活発なのは、経営者への個人保証だけが要因ではないからです。

 
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