ベンチャー企業のように、リスクは高いものの、将来性の高い事業については、銀行からの融資ではなく、投資家による直接出資(返済の義務はなく、失敗した場合には投資家が損失を引き受ける)によって賄われるのが通常です。諸外国ではこうしたリスクの高いビジネスは、返済の義務がない株式で調達するのが標準的であり、そもそも銀行からの融資でリスクの高い事業を行うこと自体が経済合理性を欠いています。

イラスト:Shutterstock

ところが日本の場合、こうしたスタートアップに対する資金支援が十分ではないことから、多くの起業家が、銀行融資によって創業しています。銀行にしてみれば、預金者から預かった大切なお金であり、簡単になくしてしまうことはできませんし、安易に融資を行えば、逆に預金者に対する背信行為になってしまう危険性もあります。こうしたリスクを回避するには、経営者個人に対してもガチガチに責任を負わせるしかありません。

 

つまり、創業間もないベンチャー企業に対して、普通に銀行融資が行われている状況にこそ問題があり、この部分を改善しなければ本当の意味でのベンチャー育成は難しいのです。

もっとも日本においても、技術力を持つ高度なベンチャー企業に対しては、ベンチャーキャピタルと呼ばれる専門の投資ファンドが返済不要の株式で資金を提供しています。しかしながら、こうした高度な技術を持つベンチャー企業はごくわずかであり、多くの企業は特別な技術を持っているわけではありません。

ビジネスが活発な米国の場合、起業家が事業を始める際には、ゼロから会社を立ち上げるというケースもありますが、すでに事業を行っている人が引退する際、若い起業家に事業を売却するなど、ある程度、形が出来上がっている事業を引き継ぐケースも珍しくありません。

こうしたやり方であれば、特別な技術がなくても事業に乗り出せますし、場合によっては銀行の融資で資金をまかなうことも可能でしょう。何より、すでにビジネスとして立ち上がっているものですから、投資家側も安心して資金を提供できます。

加えて言うと、創業間もない企業や、前例がない企業とは取引をしないといった、日本の大企業独特の商習慣も改める必要があると考えます。

筆者は実際に起業した経験があるのでよく分かりますが、事業を立ち上げる人間というのは、基本的にすべてを引き受ける覚悟ですから、実は、個人保証や無限責任はそれほど大きなカベにはなりません(もちろんないに越したことはありませんが、自己破産を怖がるような人では、そもそも会社を創業することなどできません)。問題はむしろ創業後で、前例がないという理由だけで取引について門前払いを受けることの方が、圧倒的に大きな障壁として立ちはだかります。

つまり起業を促進するためには、単純に個人保証をなくすといった解決策だけでなく、事業の売買や商習慣なども含めた総合的な環境整備が必要であると筆者は考えます。今回の個人保証免除という施策をきっかけに、全体的な環境の整備に繋げていけるのかがカギを握ります。
 

 


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