イラスト:Shutterstock

兵庫県尼崎市で、市民46万人分の個人情報が入ったUSBメモリーを、業務を請け負った企業の社員が一時、紛失するという出来事がありました。幸いUSBメモリーは発見されましたが、紛失した担当者は、直接、業務委託を受けた企業の社員ではなく、再々委託された企業の社員だったことが明らかとなっています。

 

尼崎市は、コロナ危機の給付金業務について大手IT企業に委託していましたが、受託した大手IT企業は、別の企業に業務の一部を再委託し、再委託を受けた企業は、さらに別の企業に業務を再々委託していました。再委託する場合、市に許可を得る契約になっていましたが、受託した大手IT企業は市の許可を得ておらず、市側も再委託、再々委託されていることは把握していませんでした。

住民の個人情報という極めて重要なデータが、いとも簡単に、しかも許可なく、あちこちに提供されている現状に背筋が寒くなった人も多いと思います。

業務を請け負った会社が別の会社に業務の一部を再委託するケースは以前から存在しており、必要に応じて再委託は社会的にも許容されてきました。受託企業が手薄な部分について、しっかり契約を交わした上で他社に委託することにはそれなりに合理性があるからです。しかしながら、すべての企業が再委託を適切に実施しているとは限りません。今回のケースがそれに該当するのかは分かりませんが、中には業務を丸ごと外部に委託し、自身は中抜きだけをする企業も存在しているからです。

発注側としては、受注する企業の能力を見越してその企業に仕事を委託しているわけですが、もし丸投げに近い形で再委託が行われてしまうと、当該企業に発注したとは言えない状態になってしまいます。結局のところ、程度問題ということになるわけですが、業務の大半、あるいはそれに近い分量を外部委託するというのは、基本的に不適切と考えるべきでしょう。

では、なぜこのような業務の再委託、あるいは丸投げといったことが発生してしまうのでしょうか。 

1つは過度なコスト対策です。ある企業が請け負った業務の中に複数の仕事が存在しており、1つは単価が高く、もう1つは単価が安い仕事だったと仮定します。この場合、請け負った会社は単価の高い業務だけを行い、単価の安い業務を別の会社に委託することで、より大きな利益を上げることが可能となります。

これが行き過ぎてしまうと、企業の中には仕事を受注することだけに特化し、自身では管理業務と単価の高い業務だけを行って、現場作業の多くを丸投げするケースも出てくることになります。

 
  • 1
  • 2