唯一無二の「二刀流」
 

 

ーー他にいない、ということでは、やはり歌舞伎俳優と清元の太夫の二刀流に挑戦されていることもそうだと思います。ご自分の中でどういうふうに融合したり、作用したりしているのでしょうか?

 


右近 役者の演技や舞台を全力で盛り上げるのが音楽家の役割ですが、逆に役者は、音楽家には自由に気持ちよく演奏してもらって、そこにバチッとあわせていく。でも、譲れないところはどうするとか、セッションのようにしていくことが、音楽家と役者との関わりの上ではすごく重要だと思います。

「このセリフが終わった時に、この音で留めてください」と言うのではなく「音楽のいいところで、僕はこのセリフ終わったらいいな」というように、“音を聞きながら芝居をする”ということをすごく意識するようになりました。

清元としては、父が家元といういわば社長の立場。役者の僕は個人事業主みたいなところがあるんですけど、僕は清元の副社長のような感じでもあるので、そういう役割から考えることもあります。プロデューサーにもなって、清元にスポットライトを当ててもらう機会をたくさん作りたいし、清元の発展ということも考える。自分一人が楽しければいいというのでなく、楽しさを分かちあう。ありがたいことに兄が清元の三味線(清元斎寿さん)なので、兄弟でその土壌を作っていくことも考えていきたいですね。


ーー今回のお話で感じたのは、歌舞伎と文楽、歌舞伎のそれぞれのお家、俳優と音楽家、あとはバラエティ番組にもよく出ていらして、一般の芸能界と歌舞伎の世界、そして私たちと歌舞伎。いつでも右近さんは、あらゆる境界の橋渡し的な役割をされているということです。その意味でも唯一無二の存在だと思いますが、こうした立ち位置についてはどうお考えでしょう。

右近 自分は全部つながっていると思っていて、考えてそうしているわけではないんです。すべてとちゃんと関わるってことが、結果的にそういう風に見えるんですかね。

ーー下手するとコウモリ的な、どっちつかずの立ち位置に陥ってしまう、というような怖さはありませんか。

右近 そういう風に思われちゃったかなって、へこむ時もありますけど。でもまあ、コウモリであろうがなんであろうが、楽しんだもの勝ちでしょう。「じゃあ真剣に楽しんでるコウモリをバカにするの?」って思いますからね。

真剣に楽しむ、全部楽しむということ。「楽しむ」と「楽」は違いますから。やっていれば楽も苦あって、それもすべて楽しめるのが本当の「楽しみ」だと思うので。


尾上右近 Ukon Onoe
1992年5月28日生まれ。曽祖父は六代目尾上菊五郎。母方の祖父に昭和のスター鶴田浩二、父親に歌舞伎伴奏音楽、七代目清元延寿太夫(きよもと えんじゅだゆう)を持つ。7歳で歌舞伎座にて初舞台を踏み、以後歌舞伎の道へ。歌舞伎伴奏音楽の清元の太夫もつとめる。大河ドラマ『青天を衝け』をはじめ、ミュージカル、バラエティーなど多方面に活躍。映画『燃えよ剣』にて第45回日本アカデミー賞 新人俳優賞受賞。7月より、テレビ朝日系金曜ナイトドラマ『NICE FLIGHT!』(毎週金曜23:15〜)で民放連続ドラマ初出演。

<公演情報>
尾上右近 自主公演 第六回『研の會』

会場:国立劇場 小劇場(東京都千代田区隼町4-1)
日程:8月22日(月)昼の部12:30〜/夜の部17:00〜、8月23日(火)昼の部12:30〜/夜の部17:00〜(全4公演)

【チケット予約開始】7月16日(土)午前11:00~
・e+(イープラス) https://eplus.jp
・国立劇場チケット売場(窓口販売のみ)11:00〜18:00

【問い合わせ先】尾上右近事務所:080-4862-5858(11:00~20:00)
 


撮影/中垣美沙
取材・文/本橋ヒロ
構成/山崎 恵