監督の実体験を映画化、随所に光るリアリティに納得


里親の心構えを示す「大切なのは、愛しすぎないこと」というのが本作のキャッチフレーズなわけですが、里親制度がそう身近にない日本人にはすぐにはその意味を理解しにくいのかもしれません。家庭のさまざまな事情から支援を受けるフランスの子どもの割合は、日本の10倍もいるそうです。それだけフランスでは子どものための福祉が充実し、里親家族そのものが身近にある。そんなフランスの地で作られるべくして作られた作品なのです。

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©︎ 2021 Deuxième Ligne Films - Petit Film All rights reserved.

たとえ実情がわからなくても随所でリアリティを感じさせるのは、実話であり、しかも作り手であるファビアン・ゴルジュアール監督自身の実体験をもとに、映画化されていることも大きそうです。彼が子どもの頃、両親が里子を迎えて4年半一緒に暮らした思い出をいつか映画にしたいと思い続け、実現した企画ということから大いに納得できます。

 

4年半というシチュエーションは映画本編とまったく同じ。しかも、監督の母親がソーシャルワーカーから唯一受けたアドバイスこそ「この子を愛しなさい、でも愛し過ぎないように」という言葉だったのです。ちなみに本作をはじめて鑑賞した時に監督の母親はラストシーンで涙を流し、「この監督の映画は2度と見たくない」というジョークを伝えたとか。自分のその時の時間が再現されてしまったかのようなリアリティがあったのだと想像できます。

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©︎ 2021 Deuxième Ligne Films - Petit Film All rights reserved.

監督の母親が涙したようにラストに向かう10分間だけは、泣かせる手法を取ってもいます。チャールズ・チャップリンの名作『キッド』(1921)や、70年代の涙活代表映画『クレイマー、クレイマー』(79)、スティーブン・スピルバーグの自伝的SFファンタジー『E.T.』(82)といった傑作群を参考に監督が脚本に落とし込み、ズルいくらいに泣かせに来ます。

ただし、最後の次男ジュールのセリフは現実に向き合わせ、「本当の家族」のかたちに決着をつけた冷静さを極めます。今もなお持ち続ける監督の心の声のようでもあります。

<作品紹介>

『1640日の家族』
7月29日(金) TOHOシネマズ シャンテほか全国公開

監督・脚本:ファビアン・ゴルジュアール
出演:メラニー・ティエリー、リエ・サレム、フェリックス・モアティ、ガブリエル・パヴィ
2021年/フランス/仏語/102分/1.85ビスタ/5.1ch/原題:La vraie famille/英題: The Family/日本語字幕:横井和子 配給:ロングライド ©︎ 2021 Deuxième Ligne Films - Petit Film All rights reserved. 公式サイト:https://longride.jp/family/



構成/山崎 恵
 

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