オフィスとしてはもちろんのこと、宿泊、飲食、医療、商品販売など、地上の施設で提供できるサービスの多くは、自動車でも展開が可能です。現時点では自動運転は実現していませんが、カーシェアというのは、将来の自動運転を見据えた最初のサービスと位置付けることも可能でしょう。こうした新しい時代において、クルマを単なる移動手段としてとらえてしまうと、思わぬところで様々な問題を引き起こすことになります。

2021年3月に東京・丸の内で行われた、自動運転バスを走行させる実証実験の様子。写真:つのだよしお/アフロ

自動車が多目的で利用される可能性が高いことはすでに予想されているわけですから、今の段階からあらゆるケースを想定した利用契約が必要となってくるはずです。車中泊としての利用をどう位置付けるのは喫緊の課題ですし、犯罪目的で使用される可能性もゼロではありませんから、安全対策についてもさらに検討が必要でしょう。

 


日本では何か新しい技術やサービスが登場し、少しでも社会に悪影響をもたらしてしまうと、該当する技術やサービスそのものを禁止・制限してしまうというケースが後を絶ちません。社会の変化が緩やかだった昭和の時代ならいざ知らず、現代社会はイノベーションがより活発になっており、毎日のように新しい技術やサービスが登場してきます。こうした時代においては、新しい技術やサービスをうまくつかいこなせないと、経済成長もままならないのが現実です。

ある程度、事態の推移を予測しながらプロジェクトを進めていき、それでも不測の事態が発生した場合には、状況に応じて臨機応変にルールを変えていくという柔軟性が必要でしょう。この話は事業者だけにとどまるものではなく、行政側にも求められます。

例えば、自動車が車中泊のように使われるということになると旅館業法などとの関係が問題になりますし、自動車が簡易的な医療サービスの提供場所になる可能性もあり、この場合には医療関係の法律との整合性を確保しなければなりません。法律を作るためには時間がかかりますから、常に5年後、10年後を見据えて準備をしておかないと、法整備もその分だけ遅れることになります。

特に自動車の分野はイノベーションの宝庫であり、今後も、次々と「想定外」の利用方法やサービスが登場してくることでしょう。市場動向について100%予測するのは難しいことですが、多くの議論を重ねていけば、ある程度の方向性は見えてくるはずです。

カーシェアというのは、以前から議論されていた分野ですから、移動以外の利用が想定外であるというのは、少々、準備不足だったと言って良いかもしれません。

日本社会は変化があまりないことを前提にした仕組みであり、平時にはうまく機能しますが、変化が激しい時代には機能不全を起こしがちです。 事業者も利用者も、そして政府も、新しい技術やサービスが次々誕生してくることを前提に、制度設計を進めていくことが重要です。 
 

 


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