BTSが韓国語でグローバルを制した功績は、ワールド杯優勝と同じようなものではない


小島:イさんの著書『BTSとARMY わたしたちは連帯する』の中で、言語の重要性についても深い考察が展開されていますよね。英語で歌えないとグローバルマーケットでは絶対に勝てない、ましてや世界のごく少数しか話していない言語では勝てるはずがないとされている中で、韓国語の曲が英語圏の保守的なチャートを制したことに意義があったと。

たしかに、韓国語の歌詞が分からなくても幅広い人種や年代の人々がBTSの音楽に心をつかまれたことは、今の時代を象徴する現象だと思いました。ただ、同時にイさんは韓国国内の反応について危惧していますよね。「これで韓国語学習者が増えて、韓国語を世界に認めさせ、広めることができる!」という高揚感が高まるのはマズいのではないかと。

 

イ:韓国の歌手がグローバルに進出して認められ、韓国の歌を外国人が歌う。こうしたことについて、民族主義的な自負心がくすぐられることがないと言えばウソになるでしょう。実際に、韓国人はそういう感情を抱きます。特に男性はそんな傾向がある気がして、BTSの成功をサッカーで優勝したような気持ちで捉えている人もいるんですよね。その感情を燃やすことが世界の多様性を後押しするとは思いません。

小島:BTSは韓国語の曲でもアメリカのヒットチャートに食い込み、「Dynamite」以降の英語の曲でも韓国や日本のファンを熱狂させていますよね。歌詞の細かいニュアンスや言葉の意味が分からなくても、非言語の魅力で心を掴み、人と人を繋いでいます。なぜBTSにはそんなことが可能だったのでしょうか?

イ:第一に、やはり音楽の力が強いのだと思います。BTSの楽曲が強いという意味ではなく、音楽には韓国語でもスペイン語でも日本語でも、一緒に歌いたいと思わせる力がある。

二番目に挙げられるのが、人と人が関係を結ぶ時に大事なのは、「何語で話すか?」というバーバルな問題ではなく、ノンバーバルなインターアクション(心理的接触)です。言葉では伝えられない、メンバーの目線や行動。すべてが好感を抱かせる要素となり、どこの国の言葉かは関係なくファンの心を刺激するのではないでしょうか。

BTSが使っている韓国語は、外国のファンにとってはBTSと自分の間を遮る障害物ではなく、韓国語を理解できればBTSと自分が共有できるものや理解できることが増えるはずだと、言語を学びたい気持ちを刺激するのだと思います。今、世界中のファンのなかで、韓国語を学ぶ人が増えていますよね。障害物をなくすために勉強するのではなく、自分がBTSの世界をより広く理解するための武器を持つために。

 
 

イ・ジヘン
梨花女子大学で理学士、米国カリフォルニア芸術大学で芸術学修士(映画演出)、中央大学先端映像大学院で映画学博士(映画理論)の学位を取得。 檀国大学や延世大学などの講師を経て、現在は中央大学で映画についての講義を担当。映像物等級委員会の委員も務める。博士学位論文のテーマは「破局と映画:21世紀の映画における破局の感情構造」(2015)。 ポストヒューマン、映像文化と現代性の関係、ニューメディア時代の大衆文化研究に関心を持っている。
研究論文:「韓国ファンタジードラマの現在:超人とタイムスリップモチーフの明暗」(2017)、「連鎖する災難の世界を渡る:黙示録的ポストモダン再現の様相」(2017)、「後期資本主義時代におけるハリウッド陰謀論映画の政治性」(2014)ほか多数。