「子どもらしい子ども」ってどんな子? あどけなさや素直さに加えてわがままなところもある、かわいくって無垢なイメージでしょうか。でもそれって大人が作り上げたもので、実際の子どもたちはその枠に収まりきらない個性をそれぞれ持っています。8月3日に発売された『よいたん3歳、ときどき先輩。』は、「パイセン!」と思わず呼びたくなる3歳児・よいたんが主人公。

作者の息子さん・よいたんの「人間やるの何周目ですか?」と聞きたくなるエピソードがいい味を出してます。たとえば、好物のから揚げを揚げすぎて焦がしちゃった母に、騒ぐことなく穏やかに語るよいたん。

 

失敗は誰にでもあること、と悟りを開いた仏のようなありがたーいひと言を放つ彼。ついでに「焦げたのも好きだよ」と現世的なフォローまでしてくれます。

そう。母への労わりがハンパない、よいたん。仕事で朝早く出なければならない母に駄々をこねるどころか、こんな大人の対応なのです。

 

出かける母に「行かないでー!!」と泣き叫ぶとかじゃないんだ⋯⋯。人間出来すぎてますね。そして、夜遅く帰ってきた母を父と起きて待っていて、「ママお仕事お疲れ」というねぎらいと「早く寝た方がいいよ」という気遣いの言葉を忘れない。もう母性あふれるオカンが宿っているかのようですよ。

 

また、オタク気質なよいたん。某国民的キャラがモデルの「おにぎりマン」が相手も好きだとわかるとジャブをうつ!

 

相手のレベルを探りつつ、さりげなく「自分の方が詳しいんだぜ」マウントもするオタクの思考回路がしっかり備わっているのです。

パイセン感あふれるよいたんに対する両親(母・まぼさんと父・びぼさん)のスタンスも描かれます。

彼の心に芽生えるものを摘みとらず、大事に育てる点がわかるエピソード。まぼさんがマスカラを塗っているのを見て「ぼくもソレやりたい!」というよいたんに、「まだ小さいからお化粧はできないけどコレなら貸してあげる」と未使用のチークブラシを渡したのがきっかけで「扉」が開きました。

 

「男の子だから」と一方的に化粧品を遠ざけることなく、カッコイイ世界に軌道修正させることもしない母。なぜなら、カワイイ世界もカッコイイ世界も彼の中に共存しているから。

また、まぼさんが、よいたんの育つ世界は自分の子ども時代とは違う環境なんだな、と実感するエピソードも。東京生まれ東京育ちのよいたんのシティボーイぶりがうかがい知れる人形遊びでの一コマです。

 

自分が中学生の頃は渋谷のマルキューに行くのに一大決心が必要だったのに⋯⋯。赤坂や渋谷という地名が普通に会話に出てフラペチーノを飲んでいるよいたんのお友達。子どもが享受するモノやサービスに自分の幼少期とのギャップを感じてしまうまぼさんは、ショックを受けつつもこの違いを受け入れています。

そして、コロナ禍によるライフスタイルの変化も映し出すよいたん。保育園休園で、共働きリモートワークをしながら育児をこなす両親の姿を見ていた彼の言葉遣いが変わってしまったシーン。

 

おやつのボーロを食べる前にも「こちらいただいていいですか?」と確認を怠らなくなったよいたん。子どもの間での流行りは世相を反映していると感じることがありますが、子どものビジネスマン化現象は各家庭内でひっそり起きているのかもしれません。

達観してて穏やかでアニメオタク。よいたんって「おじさん」ぽいよね、と思いつつ途中までは読んでいました。でも、後半ではよいたんの「おばちゃん度」高いエピソードも出てきたりして、性別にとらわれすぎて勝手におじさんだなんて決めつけてた! ごめんなさい! なんて反省もしたり。「思い込みを外して、子どもの個性をそのまま見つめるとこんなにおもしろいのか、と発見する本作。「子どもらしくない子ども」よいたんの味わい深さにほわっと癒され、「かわいい」の本質ってこういうことだ、と感じるのです。

 

【漫画】『よいたん3歳、ときどき先輩。』第1〜3話を試し読み!
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『よいたん3歳、ときどき先輩。』
まぼ (著)

ヒーローアニメが大好きだけど、ときどき妙に大人っぽい。人生二度目疑惑のある3歳児・よいたんとの笑いあふれる日々を描く。読めば癒やされること間違いなしの爆笑子育てコミックエッセイ!

 


作者プロフィール 
まぼ

漫画を描くのが趣味。Instagramで更新している息子・よいたんと娘・しおさんの育児日記が人気。好物の七草がゆを年に1回しか食べられないという悩みがあったが、最近はフリーズドライの七草が発売されたので年中食べられて幸せ。最近で一番よかった映画は「孤老の血 LEVEL2」。
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構成/大槻由実子
編集/坂口彩