“ヤメ暴”という言葉を聞いたことはありますか? 暴力団から離脱した元組員を指します。2011年の「暴力団排除条例」の制定以降、暴力団に対する規制は厳しくなっている一方で、暴力団員を辞めたとしても5年間は組員とみなして、「銀行口座を作れない」「携帯電話の契約ができない」「自分の名義で家を借りることができない」などの制約がかかる「元暴5年条項」が適用されます。“ヤメ暴” の社会復帰はとても困難ではあるものの、新たな道を見つけて歩みだす人たちも存在します。現在、ヤングマガジンで連載中の『チリアクタ』の主人公・芥修(あくたおさむ)は伝説のヤクザにして、現在は週刊青年誌で連載を持つ漫画家。謎多き人物で、編集部内でも彼の素性はあまり知られていません。彼にもさまざまな過去があり、今があるようです。

『チリアクタ』(1) (ヤンマガKCスペシャル)


新人女性編集者、編集長の無茶振りで謎多き漫画家の担当に。


大手出版社・講文社の週刊青年誌ヤングバード編集部に配属されて間もない新人編集者・三原玲奈(みはられな)は、ある日突然、編集長の田辺から「隻眼の阿修羅」という連載の担当を言い渡されます。タイトルと同名の“隻眼の阿修羅”と恐れられた伝説のヤクザを描いた作品で、既刊18巻、発行部数270万部の人気作品です。ただし、作者本人の素性は前担当である田辺しか知らない様子で、実は現役ヤクザで、若い衆をアシスタントにしているという噂まであります。

 

そもそも漫画ではなく文芸志望だった三原は、そんな素性の知れない作家の担当になることを速攻で拒否します。しかし、担当になって成果が出せたら、希望の部署に行けるよう上に掛け合えるかもと田辺に匂わされ、渋々受け入れることに。

そんな三原は、目の前の仕事はそつなくこなしつつ、編集者をやりながら自分で納得のいく小説を執筆し、いずれは小説家になるという野望を抱いていました。田辺に一人で担当替えの挨拶に行けと言われ、芥の仕事場に向かう三原。到着したのは売れっ子漫画家にしては質素な二階建てのアパートの一室でした。

 
 

一棟買いのアパートで、6人の子どもと暮らす芥の正体は?


仕事場で三原を迎え入れたのは湊という若い女性で、奥の部屋に案内されます。若い衆をアシスタントにしているらしいという噂を思い出して緊張していたところ、奥の部屋から飛び出してきたのは5人の子どもたち。三原が持参した手土産を奪い取ってアパート2階の各部屋へと逃げていきました。湊によると、このアパート一棟まるごとが芥の所有で、上の階は子どもたち専用の部屋だというのですが、あの子どもたちが全員芥の子どもということ? と謎は深まるばかり。

 

ようやく芥と対面した三原は、芥の「隻眼の阿修羅」をほとんど読んでいないくせに、入社前からずっと好きな作品で、「妙なリアリティがあってグイグイ引き込まれます!」と流れるように嘘を付きます。ヘラヘラと喜ぶ芥を見て、「ちょろいな〜〜」と感じたついでに、子どもたちのことを聞いてみました。湊は芥の知人の子どもで、5人の子どももみんなワケアリ。家事や漫画の手伝いをしてもらう代わりに芥が面倒を見ているというのです。

 

一棟買いしたアパートで、赤の他人の子どもたち6人もの面倒を見ているだなんてにわかには信じられない三原。やはり現役ヤクザという噂は本当で、身寄りのない子どもたちを預かって臓器売買でもしているのではないかと怪しみます。そんな三原を見ていた芥は、「最初(ハナ)から俺の漫画読んでないだろ?」と単行本全巻を名刺代わりに差し出します。図星ではあるものの、プライドが高く、新担当となった三原はそのことを認めるわけにはいきません。

 

編集部に戻った三原は、芥の人を見透かしたような態度を思い出してイラついていました(まぁ、実際には本当に作品を読んでいなかったわけですが)。自分の非を認めたくない三原は連載前のデビュー作から徹底的に読み込んで、次回会う時に芥をギャフンと言わせてやろうと考えます。

5年前に掲載されたデビュー作は「隻眼の阿修羅」の前身となった読み切りで、主人公が抗争で今にも死にそうな兄弟分から一人娘を託されるシーンがありました。彼女の名前はミナトで、芥の仕事場にいた湊とホクロの位置も雰囲気も似ていました。徹夜で「隻眼の阿修羅」全巻を読んでみると、暴力団の名前などは変えているものの、漫画で描いてあることと実際の事件が一致することに気づきます。もしかして漫画家・芥修は、背後から銃弾を受けても倒れず、その時の銃痕に因んで“隻眼の阿修羅”と呼ばれた伝説のヤクザ本人で、作品は自伝漫画ということ?

 
 


過去は変えられなくても、未来は変えられる。漫画に込めた思いとは?


いや〜、とにかく1話1話が、絵のタッチ同様に濃い! 登場人物はさらに輪をかけて濃ゆい! 出版社勤務はあくまで自分が小説家になるための踏み台と言い切っているものの、芥の担当になり、漫画編集者という仕事に少しずつ向き合うようになる三原、芥が作品を編集部に持ち込みした時に元ヤクザであり、作品が本人の自伝ということを見抜き、彼に熱意と将来性を感じて担当になった現編集長の田辺、親がヤクザであるがゆえに親を失ってしまった子どもたちなど、クセ強めキャラクターたちに魅了されます。

もちろん一番気になるのは、元伝説のヤクザで今は漫画家となった芥修。普段の彼はかなりフランクなのだけど、時々カタギとは明らかに異なる凄みが見え隠れします。なぜ、自分の経験を漫画にしようと思ったのか? ヤクザの抗争などで孤児になってしまった子どもたちを一手に引き受けて養っているのか? ヤクザであるという過去は変えられないし、自らも幼い頃に本気で愛してくれる大人に恵まれなかったという経験があるからこそ、漫画を通して未来へと繋げることができればという思いで漫画と向き合っています。根底に流れるのは「愛」で、己の胆力で人生を切り開く強さもあります。

元ヤクザが主人公のアウトローものと見せかけておいて、ギャグあり、熱血あり、バイオレンスあり、愛ありと盛りだくさん。芥の筋の通った言動にはスカッとさせられます。また、三原を通して、漫画編集者の仕事の裏側も垣間見ることもできます。ヤングマガジンでいま一番アツい漫画だ! と個人的には思っていて、毎週真っ先に読んでいる作品です(マジで)。

 

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『チリアクタ』
木村航 講談社

魂ぶっ刺せ!! 愛と男気の超渾身アウトロー漫画!! 元極道にして、現アウトロー漫画家――。 P.N芥 修の熱筆人生、波瀾必至の激開幕でございます――。