病気もしくは怪我で身体機能を失い、前と同じ状態には戻れないと告げられたとき、絶望して運命を恨みながら生きていきますか? それとも現状を受け入れ、できるだけ楽しく生きようと努めますか?

もちろん、多くの人は後者を選ぶと思いますが、実際になってみないと分からないというのが正直なところではないでしょうか。だからこそ、困難に直面したときの身の置き方、心の持ちようを先人に学んでおくことが大事かもしれません。

そのロールモデルとなるのが、ライフネット生命保険株式会社の創業者で、現在は立命館アジア太平洋大学(APU)学長として活躍されている出口治明さんでしょう。2021年1月に脳卒中で倒れた出口さんは、失語症や右半身麻痺など重度の障害を抱え、APU学長への復職は望めないと言われながらも1年以上のリハビリテーションに挑み、2022年3月、晴れて現職に復帰されました。

ベストセラーとなった『還暦からの底力』をはじめ、数々の著書でも知られる出口さんは、リハビリの詳しい様子やそのときの心境を『復活への底力 運命を受け入れ、前向きに生きる』という本にまとめています。

70代にして過酷なリハビリに挑むことになった出口さんは、どのような気持ちで困難を乗り越えたのか……おそらく、そこには笑顔で生きるためのヒントがたくさん隠れていることでしょう。

今回は、出口さんの考え方について書かれた部分を抜粋し、どんな状況でも前を向けるようになる秘訣を探っていきたいと思います。

 

出口 治明(でぐち はるあき)さん
1948年、三重県に生まれる。立命館アジア太平洋大学(APU)学長。ライフネット生命保険株式会社創始者。京都大学法学部を卒業後、1972年、日本生命保険相互会社に入社。企画部や財務企画部にて経営企画を担当する。ロンドン現地法人社長、国際業務部長を経て2006年に退職。同年、ネットライフ企画株式会社を設立し、代表取締役社長に就任。2008年、生命保険業免許取得に伴いライフネット生命保険会社に社名を変更。2012年、上場。社長、会長を10年務めたのち、2018年より現職。2021年に脳卒中を発症、約1年の休職ののち、校務に復帰を果たす。訪れた世界の都市は1200以上、読んだ本は1万冊超え。主な著書に『生命保険入門 新版』(岩波書店)、『全世界史(上下)』『「働き方」の教科書』(ともに新潮文庫)、『哲学と宗教全史』(ダイヤモンド社)、『座右の書「貞観政要」』(角川新書)、『人類5000年史(Ⅰ~Ⅳ)』(ちくま新書)、『自分の頭で考える日本の論点』(幻冬舎新書)、『還暦からの底力』(講談社現代新書)などがある。

 

プロの指導についていくことが最善の策


まずは、出口さんのリハビリへの向き合い方を見ていきましょう。どうやら、出口さんは仕事のときと同じ心持ちでリハビリに挑んでいたようです。

「僕はAPUの学長職に就く前のライフネット生命保険株式会社で働いていた時も、仕事は『元気で明るく楽しく』をモットーにしてきました。リハビリも辛く厳しい表情でこなすのではなく『元気で明るく楽しく』です。理学療法士はリハビリのプロなのですから、指導は任せます。プロに任せた方が合理的ですし、リハビリもスピードアップされます。僕の仕事上のもう一つのモットーは『スピード重視』でした。プロの指導についていくことが最善の策です。迷いはありませんでした」

出口さんはリハビリというものをとても客観的に捉えていたことが分かります。では満身創痍でも仕事のときと同じ冷静さを保てたのはなぜなのか? 次ページで掘り下げていきたいと思います。