ぐちって落ち込んでいる暇はない──豊富な知識が支えたメンタル

過酷なリハビリに心が折れなかったのはなぜ?70代学長の奇跡の復活を支えたもの_img1
 

脳卒中で重い障害が残った場合、多くの人がうつ傾向になるそうですが、それとは逆に、出口さんは「身体の不自由さはきっとよくなる」と楽観的に考えることができました。そのメンタルを支えていたのは、脳にまつわる豊富な「知識」だったようです。

 

「一般に、重度障害時であっても、脳がダメージを受けるのは、そのウェイトの20%以下と推定されます。ということは、重度障害時でも脳の80%以上は正常です。そもそも、脳卒中で障害の出た患者がリハビリに取り組むのは、脳に可塑性という特徴があるからです。簡単にいえば、脳出血等でダメージを受けた部分は回復しませんが、他の領域がダメージを受けた部分の機能を代替していくのです。日本リハビリテーション医学会がまとめたテキストには、以下のようにまとめられています。


脳血管障害に伴うさまざまな神経症状と機能障害は、全身のコントロールセンターである脳組織の損傷に伴うものである。脳血管障害により損傷を受けた脳組織そのものは回復しえないが、その周辺部位が神経可塑性(neuralplasticity)による機能再編(reorganization)することにより神経症状および機能障害が回復することが明らかとなっている。
(日本リハビリテーション医学教育推進機構/日本リハビリテーション医学会監修『脳血管障害のリハビリテーション医学・医療テキスト』医学書院)


脳卒中の障害に対し、リハビリ治療を行う最大の目的がここにあります。リハビリは、脳の機能再編を最大限に促進するために行っているのです。このように専門家が明らかにしているのですから、右半身の麻痺と言語障害が出ながら復職を目指す僕が、スタッフの皆さんの指導に基づいて一所懸命リハビリに取り組むのは、当たり前すぎるほど当たり前の話でしょう。『昔はできたことができなくなった』などと、ぐちって落ち込んでいる暇はありません」
 

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リハビリ中および復職後の出口さん
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