公的年金の財政は悪化の一途を辿っており、このままでは、将来、2割から3割、年金が減額されるのは確実です。減額された年金だけで生活できる人はごくわずかでしょうから、多くの人は年金プラスアルファの収入がないと、ゆとりある老後は実現できません。

当初、岸田政権は「所得倍増プラン」を掲げ、賃上げや再分配など通じて国民の稼ぎを増やす青写真を描いていました。財源としては、利子や配当などへの課税(いわゆる金融所得課税)などが想定されていました。つまり、投資に対する税金を強化し、そこから得られる税金を使って景気拡大や所得再分配を実施する政策だったわけです。

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8月10日、第2次岸田改造内閣が発足。会見する岸田文雄首相。写真:代表撮影/ロイター/アフロ

ところが、このプランに対しては証券業界から猛烈な反発があり、最終的に「所得倍増プラン」は「資産所得倍増プラン」に名前を変え、投資を推奨する流れに方向転換されました。所得を再分配し、中間層以下の年収を上げるという話が、投資を推奨し、自己責任で将来に備えるという、ある意味では正反対の政策になってしまったわけです。

今回、検討されているNISAの恒久化は、単体で考えた場合、非常に優れた内容ですが、日本全体の状況を考えると必ずしも手放しで喜べるものではありません。

投資減税の恩恵を受けるためには、投資を実行する必要がありますが、貧困化が進む今の日本において、投資を実行できる人は、一定以上の所得がある人に限られます。場合によっては、国民の格差をますます助長するリスクも出てくることでしょう。

筆者はNISAの制度拡充そのものは評価していますが、同時に、あらゆる階層で賃上げが進むよう、経済構造の転換を進めていく必要があると考えます。これが実現しなければ、せっかくのNISA拡充も、多くの人がメリットを享受できず、絵に描いた餅になってしまいます。

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