赤松さんのお仕事を語る上で、女優たちに手がけたヘアメイクも外せません。
たとえば担当した代表的な女優は、蒼井優さん、宮﨑あおいさん、綾瀬はるかさん、多部未華子さん。まだ皆さんが10代の頃から、パブリックイメージや女優としての方向性を決定づけるヘアメイクを長年かけて作っていました。
「10代から二十歳に、二十歳から20代半ばに、そして30歳へ、という感じで本人像をシフトしていく感じを一緒に作れたのは、楽しかったなあって思います。
自分も若かったから、彼女たちの変化と自分の成長が、ちょうど伴走していたんですよね。フットワークも軽いし、いろんなことを取り入れて、いいね、いいね、ってワクワクしている時期だったから、それも相まって楽しかったんだなあと思うなあ」
「目を大きく」「輪郭を細く」という一辺倒のメイクではなく、あくまでもその人の個性を引き出すメイクで、女の子をかわいく変身させてしまう赤松さん。
では、赤松さんの思う“かわいい”とは、どんなことを言うのでしょうか?
「甘く切ないこと、ですね。師匠の宮森さんは雑誌『Olive』でコンプレックスをチャームポイントに変えるとか、ブスかわいいという概念を作ってきた人なんですが、『綺麗というのは完成されているものだけど、かわいいという世界観は、とても甘く切ないんだよ』ということを教えられたんです。
“かわいい”って、ちょっと訳がわかんなかったりするじゃないですか。お花を見てかわいいって思う一方、誰かが転んだ姿を見てかわいいって言ったりもする。不完全で、なんか切ない……とっても不条理な世界が“かわいい”なんですよね。
ただただ甘い世界観を作っても、かわいくならない。だから、メイクを手がけるときは、かわいいと相反する要素を必ず入れるようにしています。『清潔でシンプル。ヘルシーでアバンギャルド。それが一番いいんだよ』って。これも宮森さんの言葉ですね」
一見ナチュラルに見えるメイクも、シンプルに見えて、ちょっとだけ毒っけがあるように細工をしているのだそう。
「はっきりと気づかれなくても、作品を受け取る人には絶対に伝わるんです」
赤松さんが手がける人や作品を魔法がかかったように魅力的にしてしまうのは、膨大な知識と確かなセンスとテクニック、ひとりひとりの個性を尊重する審美眼と「なりたい“かわいい”に協力したい」という強い信念があるからなのです。
取材・文/上田智子
撮影/木寺紀雄
構成/片岡千晶(編集部)
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