なんともユーモラスな布袋さま。見ているこちらも嬉しくなるようなこの画を描いたのは「博多の仙厓(せんがい)さん」として親しまれた禅僧・仙厓(1750-1837)です。

これは「禅画」と呼ばれる禅の教えを説く画ですが、現代の私たちが見ても「楽しくてかわいい」魅力あふれるもの。質・量ともに日本最大の仙厓コレクションを誇る出光美術館(東京)では現在「仙厓のすべて」展が開かれています。

今回は、出光美術館編『仙厓BEST100 ARTBOX』をもとに、仙厓さんの魅力をたどってみましょう。

 


最も有名な作品が示すのはまさに「禅問答」。
「◯・△・□」の意味とは?

『仙厓BEST100 ARTBOX』p.14-15より

仙厓の最も有名な作品として知られる「〇△▢」。〇、△、▢がそれぞれ宗派を表すとか、仏教・儒教・神道を示すとか、その解釈には定説がありません。そもそも「マル・サンカク・シカク」と呼ばれているのに、墨の濃淡から判断すると「▢、△、〇」の順に描かれたようなのだとか。謎多き、そして魅力あふれる作品です。


指差す布袋は「出光コレクション第一号」

『仙厓BEST100 ARTBOX』p.20-21より

布袋さまはもちろん、「お月さまを取って!」と手を広げる子どもも実に楽しそう。しかしこの画で説かれている「指月」の教えは厳しいもので、指は「経典」、その上にあるはずの月は「悟り」の象徴。つまり「経典だけ読んでいても真の悟りは得られない」と教えているのです。

学生時代にこの画に出会った出光佐三氏が、最初に求めたコレクション第一号がこの画でした。「月のありかを示しているのに、なぜ指を見て月を見ようとしないのか」と、画は社員への訓示にも使われたそうです。


ほがらかな水墨画に添えられた
人生を生きやすくする「禅のことば」

『仙厓BEST100 ARTBOX』p.24-25より

右は、力強い「堪忍」(かんにん)の文字と、どんな風もサラリと受け流す柳の木。添えられた文字は「気に入らぬ 風もあろうに 柳かな」。あの柳の木だって出来ているのだから、耐え忍ぶことだって出来るのでは? ということでしょうか。

左は、夫婦の鶴が「鶴は千年、亀は万年」と朗らかに告げています。そして仙厓が結ぶのは「我は天年」の言葉。人には寿命があるよ、限りある人生を存分に生き抜けよーーというメッセージでしょう。

<展覧会紹介>
東京・出光美術館「仙厓のすべて」展


出光興産の創業者である出光佐三氏が、1966年に創設した出光美術館。約1000件からなる仙厓のコレクションは、質・量ともに日本随一を誇ります。遺された教えは時を超えて現代に生きる私たちにも役立つものばかり。広く深い仙厓のまなざしにふれてみては。

会場:出光美術館(東京都千代田区丸の内3-1-1 帝劇ビル9F)
会期|2022年9月3日(土)~10月16日(日)※日時指定予約制
開館時間|午前10時~午後4時(入館は3時30分まで)
休館日|毎週月曜日 *ただし9月19日、10月10日は開館。9月20日(火)、10月11日(火)は休館
最新情報は、公式サイト、またはハローダイヤル(050-5541-8600)でご確認ください。

書籍紹介)
『仙厓BEST100 ARTBOX』

 

定価:2750円(税込み) 講談社・刊
出光美術館ミュージアムショップのほか、一般書店、インターネット書店でも購入できます。

 

構成/からだとこころ編集チーム、山崎 恵