6月に発売になったコミック付き書籍『山手線で心肺停止 アラフィフ医療ライターが伝える予兆から社会復帰までのすべて』。漫画には、私の救急搬送で困惑する父(当時90歳)が登場します。しかし、その父が5月に92歳で旅立ってしまいました。

 

「美加さん、お誕生日おめでとう。ショックで呼吸も心臓も止まった後、九十九死に一生を得たのは、パパは亡くなったママが後ろで美加を支えていたことによって起きた奇跡と感じています。
その新しい人生で美加は何を考え、何をしようとしているか。パパも知りたいし、これから先の生まれ変わった人生に対する考え方をまとめておくべき時であると言って良いと思います。またそれをすることが今、美加がなすべきことであり、それによってこれからの以後の新人生の生き方も決まってくると思っています。
美加の友人をはじめ、我々家族も考えられない貴重な経験をしました。今、毎日の生活の中で美加が何を感じ、今後何を計画しているかを、聞きたい…また美加自身としてもそれをしっかり考えまとめておかねばならないことであると言えます」(原文ママ)

これは、私の退院した後の誕生日に父からの届いたメールです。亡くなった後に、何度も読み返し、父の言葉に、私は強く背中を押され、社会復帰を果たせたと振り返っています。

 

普通の毎日が続くのは、実は奇跡なこと


「生かされたのはあなたの宿命。今度はあなたが社会に恩返しする番です」と、退院後にお礼に伺った際に、救命救急の担当医からのメッセージも心に刻まれていました。私は自分の心肺停止で倒れた経緯や治療について記事をまとめて本にしたい。わかりやすいコミックエッセイできれば、誰かの命を守る行動変容に結び付くきっかけなるはずと、動き出したのです。

制作は、漫画家の上野りゅうじんさんとミモレ編集長の川良咲子さんと、三位一体となってコロナ禍で1年に亘り、毎週ZOOMで打ち合わせをして行われました。上野さんは「見ていたの?」と思うほどリアルに描写してくださり、川良さんは編集者として常に的確に意見をくれました。地道な積み上げで、完成した一冊です。正しく役に立つ情報をお届けするために、東京都済生会中央病院の主治医鈴木健之先生と東京都リハビリテーション病院の作業療法士大場秀樹先生に監修でご協力いただきました。

出来上がった本をサプライズで父に見せようと計画していたのですが、今度は「まさか」が父を襲ったのです。散歩中の転倒による右手親指骨折がきっかけで、入院、介護施設へのショートステイ生活で、フレイルが進行。ふらつきが増え、ちょこちょこ転倒するように。そして最後の転倒で頭部を強打し、意識不明で救急搬送。硬膜下血腫で、2週間後にこの世を去りました。倒れる前日まで、私は父と打ち合わせをしていて「また明日ね~」と別れたのが最後になってしまいました。転倒さえなければ、100歳まで余裕で生きられたと、無念でなりません。

家族や友人、にゃんず(愛する猫の家族たち)と過ごす日常は決して当たり前でなく、本当は奇跡のような時間だと、失ってから気が付くのです。「また明日」と別れて、次の日に会える保証なんかどこにもない。そんなことわかっていたはずなのに、すぐに忘れて……。後悔ばかりの人生です。

 

そんな愚かな繰り返しからでも、「知識を得て、備えておくことは決して無駄ではない」と学んだこともあります。『山手線で心肺停止!』は、みなさんをやみくもに脅かすのが目的ではありません。何かひとつでも命を守るための参考になればと願い込めています。

本を父の墓前に供えた私は父からのバトンを引き継ぎ、しっかり生きていきたいと思っています。突然ではあったけれど、しっかり生き抜いた父の姿は、私の目標になりました。

 
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