医療と介護の連携がうたわれて久しい中、その両方をつなぐ架け橋として27年間尽力してきた医師がいます。それが、今回インタビューをさせていただいた医学博士で在宅医療に取り組む長尾和宏先生。この度、介護界の大御所である三好春樹先生と上梓した『完全図解 介護に必要な 医療と薬の全知識』は、まさに「介護者のための医学書のバイブル」とも言える内容で、病気と薬の知識から生活づくりまで、高齢者と介護者に役立つ知識がわかりやすくまとめられています。そこで今回は長尾先生に、ニューノーマル時代の介護の注意点、そして昨今よく耳にする「フレイル」について詳しく教えてもらいます。

 

長尾和宏(ながお・かずひろ)さん
医学博士、長尾クリニック名誉院長。公益財団法人日本尊厳死協会副理事長・関西支部長、日本ホスピス在宅ケア研究会理事、関西国際大学客員教授。『「平穏死」10の条件』(ブックマン社)など多数のベストセラーがある。予防から看取りまで、人生に寄り添う総合医療の大切さを伝える町医者として知られる。

 


いまの高齢者は外出自粛の結果、すっかり弱っている

 

――最近「フレイル」という言葉をよく聞くようになりました。フレイルについて教えていただけますか?

長尾和宏先生(以下、長尾) フレイルとは、加齢によって運動機能や認知機能が低下し、心身が虚弱になって、周囲の手助けが必要な状態とされています。高齢者が健康的な生活を送るうえでは、フレイルをいかに防止するかが重要です。コロナ禍に感染予防対策として推奨された「ステイホーム」は、残念ながらフレイル防止の視点で見ると好ましくない影響をもたらしました。これからはコロナ禍で失われた運動機能(身体的フレイル)、認知機能(精神的フレイル)、孤立した環境(社会的フレイル)の回復に早急に目を向ける必要があるでしょう。

――先生がおっしゃる「好ましくない影響」とは、ステイホームで外出が減り、人と会わなくなったぶん、高齢者のフレイルのリスクが上昇したということでしょうか。

長尾 その通りです。特に運動機能の低下、つまり「身体的フレイル」は深刻な状況といえます。歩行量が減ると骨や関節、下肢の筋肉が衰えて歩行に支障をきたします。高齢者では特に大腿部の筋肉が萎縮して、歩行時に前傾姿勢になる、スピードが遅くなる、そうして“トボトボ歩く”方がとても増えました。歩行バランスが悪いと転倒につながり、骨折して入院が必要になるケースも当然増えます。コロナ禍の運動のブランクは非常に大きくて、私が連携する介護施設でも、転倒する高齢者が目に見えて増えている印象があります。

 

――介護をされている方は相当神経をすり減らした2年半だったと思います。これからできる対策として、高齢者の身体的フレイルのリスクを減らすにはどうしたらいいでしょうか。

長尾 ちょっとした散歩でもいいので太陽を浴びて、毎日の歩行習慣をつけることが第一です。高齢者を介護する方はこの2年半、感染リスクに晒さないために「外出しない・外出させない」方も多かったと思いますが、いつまでも家に閉じこもっていてはフレイルのリスクは高まる一方。自力歩行が可能でも車椅子でも、公園や河原など広い屋外を一緒に散歩したり、徒歩での買い物に連れ出すなどが望ましいですね。高齢者の「過度な外出自粛」「過度な安静」は、健康を守るどころかむしろ害になります。正しく恐れながら積極的に外出する――高齢者の方にも介護者の方にも、ぜひこの考え方を覚えておいていただきたいです。