肺炎がいやなら、ぜひとも口のケアとトレーニングを!

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――コロナ禍の運動能力の低下は、高齢者に限らず全年齢的に課題といえそうですね。

長尾 そもそもフレイルは、日本老年医学会が2014年に提唱した高齢者の“老化”を防止する概念なので、高齢者特有のものと思われがちです。ですが75歳以上の高齢者でなくてもリスクはあります。フレイルには5つの基準があって、次の3項目以上でフレイル、1〜2項目で前段階のプレフレイルと判断します。

① 体重減少:意図しないで年間4.5kgまたは5%以上の体重減少
② 疲れやすい:週3〜4日以上何をするのも面倒だと感じる
③ 歩行速度の低下
④ 握力の低下
⑤ 身体活動量の低下

若い人の場合、要介護リスクに直結するものではありませんが、上記に心当たりがある人がコロナ禍のステイホーム生活を続けていたら、将来的にフレイルに陥る可能性が高まるでしょう。年齢に関係なく、生活機能が低下していると感じたら早めに対策を打つべきです。

 

――先生が在宅医療の患者さんや、介護施設で推奨しているフレイル対策は、運動以外に何がありますか?

長尾 口腔ケアですね。フレイルのひとつには、噛む力、飲み込む力、喋る力が衰えてしまうことを指す「オーラルフレイル」があります。人と会話する機会が激減、さらにマスクの着用で口周りの筋肉が落ちる、感染を恐れて歯科医の受診を敬遠するなど、コロナ禍は口腔環境の悪化の温床となりました。高齢者のオーラルフレイルは、命を脅かす誤嚥性肺炎を招く可能性があることから、特に気をつけたいところです。口腔内を清潔にすることはもちろん、噛む、飲み込む、喋る、すべてにおいて「呼吸機能を鍛える」ことが有効なので、深呼吸や腹式呼吸を意識していただきたいですね。咀嚼筋や胸や背中の筋肉や横隔膜などの呼吸筋を鍛える“ブレストレーニング”の器具を使用するのもおすすめです。

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――どうしても介護では「高齢者のコンディションに合わせる」と考えてしまいがちですが、「鍛える」ことも考えた方がいいということですね。

長尾 噛む力・飲み込む力がやや衰えたからといって、柔らかい食べ物ばかりにしてしまうと、食事の楽しみが減ってしまいますからね。咀嚼力や嚥下力を維持することは、健康を保つことに大きな役割を担います。高齢者を観察していて少し食欲が落ちたなと思ったら、出前で好物のものを取ってあげたり、お出かけして外食をしたり、お祝いのパーティーなどでみんなで食べると食欲が出る場合もあります。「もう柔らかいものしか食べられない」「少量しか食べない」と決め付けずに、色々と工夫してみていただきたいなと思いますね。

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咀嚼力や嚥下力を鍛える! 口腔トレーニング「パタカラ体操」
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①パ・タ・カ・ラと1音ずつはっきり発音します。
②パパパ、タタタ、カカカ、ラララの1つずつを5秒で何回言えるか数えます。
③パタカラ、パタカラを繰り返します。
④3番目を早口で言います。
このようなパタカラ体操を1セットでも毎食前に行うと、意識がハッキリし、咀嚼力、食塊形成力、嚥下力が向上します。