情報社会に生きる私たちは思考の罠に陥りやすい


「頭のいい人は、遅く考える」というキャッチコピーが印象的な植原亮先生の新著。まず、今なぜ“遅考術”が必要になってきているのかを教えてもらいました。

植原亮先生(以下、植原):情報環境の変化が一番に挙げられます。昭和や平成の前半ぐらいまでは、情報や知識が簡単には手に入らなかったので、すぐに答えを出せる、ということが頭の良さの一つの目安とされていました。でも今は、自分が興味ある情報が勝手に届いたりしますよね。知りたいことの答えが簡単に得られるだけでなく、知りたいと思うよりも先に答えらしきものが向こうからやって来るほど。

ただ残念ながら、これら全てが必ずしも質が高い情報とは言えません。それどころか、誤った思考に導くような情報の届けられ方がなされている恐れもある。自分で即断即決しているつもりが、実はそう思わされているだけかもしれないのです。

つまり今の情報社会は、人の思考の弱点を引き出しやすくなっているとも言えます。それでも私たちは、この状況下で生きていかなければなりません。そこで、そういった思考の罠に陥らないために実践すると良いのが“遅考術”なのです。

 

早とちりや世代間ディスコミュニケーションを防ぐには?


遅考術が具体的にどのようなものなのか分かりやすく教えてもらうために、mi-mollet世代に多い思考の弱点トラブルを相談。対処法とともに解説してもらいました。

早とちり、思い込み

経験則で判断できる年齢になってきたからこそ、早とちりをしたり思い込みで行動したりして失敗することも。これを防ぐ方法とは?

イラスト:Shutterstock

植原:経験則による早とちりや思い込みは、ある意味自然な現象であり、思考メカニズムの一つでもあります。人は、経験値が多く記憶から呼び起こしやすいことを“一般的にもよく起こること”と思い込んでしまいがち。これを“利用可能性バイアス”と言いますが、多いのは、少数の事例を一般化してしまうパターンですね。

たとえば『この人はこういう経歴だから、きっと仕事がデキるに違いない』などと、決めつけて人を見てしまったことはないでしょうか? しかし実際は真逆だったりすることもあり、結果トラブルにつながってしまう場合も。

これを防ぐには、“とりあえず一回否定してみる”ということが有効です。実は最初の考えが正しくないのではないか、この経歴だから優秀だと思ったけど違うかもしれない、と考えてみるのです。これだけで早とちりはかなり減るでしょう。人の思考にはバイアスがかかる、ということを覚えておくことで、この“否定”はクセづけることができます。

もう一つオススメなのは、記録を取るという方法。直観で思ったことと、実際の状況を記録し見比べるのです。たとえば『この人はこの経歴だから優秀だと思った』という直観と、実際のその人の仕事ぶりの記録とを見比べる、など。そうするとそこから、『自分はこのように物事を捉えやすい傾向がある』ということが見えてきます。記録までいかずとも、日記をつけて定期的に読み返してみるだけでも効果があると思います。

もちろんこれらはあくまで一つの方法で、これさえやればOKというわけでではありません。でも早とちりや思い込みによるトラブルに悩んでいるなら試してみるのはオススメです。