米国は沖縄を日本に返還しましたが、その後も、多くの基地を存続させました。沖縄に米軍基地が突出して多いのは、米国の軍事戦略と密接にかかわっているからです。

米軍は沖縄に大量の海兵隊を駐留させています。海兵隊というのは、米軍の中でも即時対応が求められる精鋭組織で、戦闘地域において上陸作戦を行い、拠点を確保することが最大のミッションです。米軍が戦闘能力の極めて高い組織を沖縄に集中配備している理由は、言うまでもなく朝鮮半島や台湾海峡で有事が発生した際に、初動作戦をすみやかに実施するためです(もっと分かりやすい言葉で言えば、中国との戦争に備えるためです)。

軍隊のオペレーションと地理的条件は不可分ですから、日本と米国が同盟関係を結んでいる限り、沖縄は常に前線基地であり、敵国からの攻撃にさらされる可能性が高い地域であり続けます。紛争が想定される地域に近く、大規模な訓練を日常的に実施できる地域は沖縄以外にはありませんから、地政学上、沖縄の基地を別の場所に移すのは困難というのが現実です(少なくとも米軍はそう考えています)。

あえて単純化して説明すれば、沖縄は歴史的経緯から日本政府に対して良くない感情が生まれやすい地域と言えます。加えて、終戦後は沖縄だけが日本から切り離され、米軍の占領下に長く置かれましたから、米国に対して良くない感情を持つ人が多いのも当然だと思います(さらに言えば、地上部隊が大量に駐屯していることから、日常的に米兵と接する機会が多く、他県と比較してトラブルが起こりやすい環境にあると言って良いでしょう)。

米軍普天間飛行場の辺野古移設工事に反対する抗議デモ(撮影は2020年)。写真:Keizo Mori/アフロ

筆者は沖縄の住民ではありませんので、想像力を働かせるしかありませんが、沖縄に住む人の中には、過激な反基地運動について、やり過ぎだと感じている人もいるのではないかと思います。一方で、こうした激しい運動がないと、日本政府や他県の人は、沖縄に対して何の関心も示さず、自分達だけが政府の都合で、いろいろなものを押しつけられてしまうと危惧しているのかもしれません。もしそうであるならば、他県に住む人が、全体の状況を考えず、反対運動のあり方について批判しても、あまり意味はないと筆者は考えます。

 

ひとくちに沖縄といっても、先祖代々から沖縄に住んでいる人もいれば、沖縄返還後、他県から移住し、沖縄で事業を始めた人も大勢います。いろいろな人が住んでいるのはどこも同じですが、沖縄の場合、返還までの間、他県のような経済成長は謳歌できませんでしたから、返還後にようやく経済活動が本格化したというのが実状です。
 
他県出身で沖縄に移住して経営者になった人と、もともと沖縄に住んでおり、返還後にやってきた他県出身者の下で従業員として働く人たちとでは、地域に対する考え方にも大きな相違があります(旅行に行っただけでは分かりませんが、沖縄で何らかのビジネスに関わった経験がある人は、この話についてよく理解できると思います)。

沖縄は日本全体にとって、安全保障上はもちろんのこと、経済的にも非常に重要な地域です。沖縄県とそれ以外の地域が分断するようなことだけは絶対に避けなければなりません。沖縄以外に住んでいる人たちは、一連の経緯を十分に踏まえた上で、沖縄の反基地運動や世論というものを受け止める必要があると思います。
 

 


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