政府が、個人のリスキリング(学び直し)支援に5年間で1兆円を投じる方針を示すなど、リスキリングに対する関心が高まっています。リスキリングとビジネスのIT化は不可分の関係にありますが、リスキリング=プログラミングの勉強と誤解している人も少なくありません。

日本企業は諸外国の企業と比べ、人材教育に投じる資金が著しく少ないという特徴があります。日本企業が社員教育に投じる金額(対GDP比の比較)は、欧米と比較すると10分の1から20分の1と、極めて低い水準にとどまっています。従業員のスキルアップが進まないと、ビジネスのIT化もままなりません。日本全体のIT投資額は、90年代以降、ほとんど増えておらず、3倍から4倍に拡大させた諸外国との差は決定的です。

厚生労働省「平成30年版 労働経済の分析〈要約版〉-働き方の多様化に応じた人材育成の在り方について-」より(2010-2014年の数字を抜粋)。

従業員のスキルアップが進まず、結果としてIT投資が活発化しないため、企業の生産性と賃金の低下という悪循環を生み出しているわけです(労働生産性と賃金には密接な関係があり、生産性が向上しないと賃上げは実現しません)。

こうした状況を打開するための方策のひとつとして注目を集めているのが、従業員のリスキリングです。

 

諸外国では、従業員に対して豊富な教育機会を提供することは、ごく当たり前となっています。ドイツにあるボッシュという自動車部品メーカーは、全世界に約40万人の従業員を抱えていますが、3000億円を投じて本格的な社員のリスキリングを進めています。これによってほぼ全社員が、何らかの形でITに関連したスキルを獲得できるそうです。日本でもこうした動きを受けて、社内教育を拡充するところが増えてきました。

リスキリングの動きが一部の企業にとどまらないよう、政府も1兆円の予算を投じて、支援する方針を表明したわけですが、世間からの反応は今ひとつのようです。リスキリングそのものは、日本人の賃金を引き上げる有力な方策のひとつですから、ぜひ国全体で進めていくべきだと筆者は考えますが、教育プログラムの中身について誤解が生じており、これが関心の低さに関係しているように思われます。

今、進められているリスキリングは、企業のIT化と密接に関係していますが、リスキリング=プログラミングという意味ではありません。IT化と聞くと条件反射的に「プログラミングはよく分からない」といった反応を示す人が多いのですが、20年前はともかく、今の時代においてIT化とプログラミングは直接関係しません。