「不安です」なんて生ぬるいことを言っている場合ではない


──坂東さんは50代後半で中年危機を経験されたと書かれていましたが、何か具体的なきっかけがあったのですか?

きっかけは、57歳で公務員を辞めて昭和女子大学に転職したことでした。「公務員しかやったことがないのに通用するかしら?」「肩書きもポストも、部下もない状態で仕事ができるかしら?」という不安に襲われました。とにかく、今までの自分のよりどころが一気になくなりましたから、不安で仕方ありませんでしたね。

──どのようにその不安を乗り越えたのですか?

いざ新しい環境に投げこまれたら、いやおうなしに何とかしなければいけないわけですよ。海に投げこまれたら、バタバタ泳がないとおぼれて死んじゃうでしょ? そんな感じで、「不安です」なんて生ぬるいことを言っている場合ではなくなったんですね。部下がいないので自分でパソコンを打たなければいけない。でもやったことがないので、個人教師をつけてひっそり勉強する。そうやって自分のやれる範囲で最善を尽くすしかなかったんです。不安を乗り越えたというより、不安を感じるゆとりがなかったという表現が正しいかもしれないですね。

自分を「大事にする」ことと「居直る」ことは別もの。坂東眞理子さんに聞く、50歳以降の心の持ち方_img0
 

未知の環境に投げこまれても何とかなる


──そうやって孤軍奮闘しているうちに、気づけば危機が過ぎ去っていたわけですね。

不安と言っているうちはまだ現実に直面していないのでしょうね。心に少し余裕がある状態。現実に直面したら不安だなんて言っている余裕はなくなります。ただ、これを経験したおかげで、人間は未知の環境に投げこまれても何とかなる、ということを学びました。

 

──まさに「案ずるより産むが易し」ですね。

そうですね。決して「易く」はなかったですけど(笑)。不安で縮こまって、あーでもないこーでもないと悩むのではなく、不安の対象に身を投じて、やらなきゃいけないことをやる。これが本のタイトルにもなっている「覚悟」です。