『エルピス−希望、あるいは災い−』(カンテレ・フジテレビ系)公式サイトより。

「このドラマは実在の複数の事件から着想を得たフィクションです」

『エルピス−希望、あるいは災い−』(カンテレ・フジテレビ系/以下、『エルピス』)でこのテロップが流れた時、胸がざわっとしました。とてつもなく挑戦的な作品が誕生する瞬間に、立ち会ってしまったような気がして。

【あらすじ】スキャンダルによって落ち目になったアナウンサーと、バラエティー番組の若手ディレクターらが、10代女性が連続殺害された事件の冤罪疑惑を追うなかで、一度は失った“自分の価値”を取り戻していく姿を描く。
 

開始前から多くの注目を集めていた『エルピス』。コアなドラマファンの間では、“名作になりそう”という共通認識がありましたよね。そう、本作にはヒットの条件がそろいまくっているのです。

構想に6年かけて、ドラマ化にたどり着いた作品。これだけでも、作り手側の“視聴者に届けたい”という熱い想いが伝わってきます。その上、本作を手掛けるスタッフ陣も、信頼の置ける方々が勢ぞろい!

まず、脚本を担当するのは、NHK連続テレビ小説『カーネーション』で知られる渡辺あやさん。視聴者の胸に訴えかける作品を世に送り出してきた渡辺さんにとって、『エルピス』が民放ドラマ初執筆。それだけでも期待値が爆あがりなのに、『カルテット』(TBS系)や、『大豆田とわ子と三人の元夫』(カンテレ・フジテレビ系)をヒットに導いた佐野亜裕美さんがプロデューサーを務めるときました。さらには、長澤まさみさんと大根仁監督(今作には演出で参加)が、2011年公開の映画『モテキ』以来のタッグを組むという……。

主題歌は、昨年のドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』の主題歌でも話題になったトラックメイカー・STUSがプロデュースする音楽集団『Mirage Collective』の新曲「Mirage」。さらに劇中音楽は、連続テレビ小説『あまちゃん』、大河ドラマ『いだてん』、映画『花束みたいな恋をした』などを手がけた大友良英が担当。

ヒットするしかないじゃろがい! というような布陣を整えた『エルピス』。初回から、視聴者の期待を大幅に上回る面白さを展開してくれました。社会派エンターテイメントということもあり、「なんだかディープそう……」と感じていた人も多かったのでは? 筆者も、「月曜日の夜には、ちょっぴりヘビーかな?」と少し身構えてしまっていました。

しかし、「分かる」「刺さる」の連続で、気づけば1時間が経っていて……。終わったあとは、1本の長編映画を観たような満足感で、胸がいっぱいになりました。冤罪事件というシリアスな題材を取り扱っていますが、なかにはポップな演出もあり(それが、逆に不気味なのですが)。時間を忘れて、没頭することが出来ました。


「一石を投じているなぁ」と思う部分はたくさんありましたが、筆者がいちばん皮肉に感じたのは、週刊誌に路上キスを撮られたアナウンサー・恵那(長澤まさみ)が、番組を降板させられた上に、日陰に追いやられていること。それなのに、キスの相手・斎藤(鈴木亮平)は、政治部の官邸キャップとして出世を遂げている。もちろん、表舞台に立つ仕事だからというのもあると思いますが、なんだか悔しくて。

いろいろなことを溜め込んできた恵那が、「もう飲み込めない」と宣言したとき。なんだか、新世代のヒーローが誕生したような気持ちになりました。若いうちはチヤホヤされるけど、年を重ねたら「おばさん」呼ばわり。少しでも体調を崩したそぶりを見せれば、「更年期か?」といじられる。恵那のように、心に蓋をするスキルを身につけている女性って、たくさんいるはずです。何を言われても、言い返さず、かといって愛想笑いもしない。そうしてモヤモヤを飲み込んでいるうちに、心が追いつかなくなっていってしまう。

本作は、社会の闇に切り込みながら、社会で生き抜く女性たちの“声”を届けてくれる作品になっていく予感がしています。少し胡散臭い斎藤のキャラクター(絶対に、こいつ何かある! という匂いがプンプンしております)や、岸本(眞栄田郷敦)が犯した(?)過去の罪。気になるところはたくさんありますが、この3ヶ月間で恵那がどれくらい変わっていくのか。筆者は、そこにも注目していきたいと思います。

 

前回記事「全世界デビュー目前!「Travis Japan」の魅力を全力で語りたい」はこちら>>

 
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