仕事の上で大事なのは、嘘だと思わせないこと


自身の役作りについてももう少し、聞いてみることに。三浦さんと言えば、第74回カンヌ国際映画祭や今年の第94回米アカデミー賞で世界的に高い評価を受けた映画『ドライブ・マイ・カー』を代表作に持ちます。それぞれの作品で唯一無二のキャラクターを作り上げているように見えます。

たとえば、煙草を吸う仕草ひとつとっても、『ドライブ・マイ・カー』のドライバーみさき役と今回の『エルピス』のチェリーとでは、全くと言っていいほど違う。

三浦透子、『エルピス』を語る「役者も作品に責任を持ちたいし、一緒に闘わせてほしい」_img6
『エルピス -希望、あるいは災い-』(カンテレ・フジテレビ系/月曜よる10時放送中)第1話より

そんな感想をそのまま伝えると、「嬉しいです。でも、自分では意識しているわけではなくて。違う作品ですが、以前2つ連続でお仕事したスタッフさんから、走り方が違うって言われたことはありました」と控え目に答えたこの後、「うーん。敢えて言語化すると、こういうことだと思います」と言う三浦さん。

「煙草を吸いたくなる理由はキャラクターによって違います。走るに至る理由も違います。理由が違うから、仕草も自ずと変わる。何故そういうことをしたくなるかを考えるんです。共通するのは読解力。台本に書かれている役を理解し、何故この人がこの行動の後に、次の行動を起こすのかとか、この台詞の後に何故この台詞を言うのか、何故この言葉を選ぶのかと考える。これが役に近づくためにやっている私の方法です。同じ内容の事を喋っても、キャラクターによって選ぶ言葉も言葉遣いも異なります。脚本家さんがこう書くってことは、こうして欲しいのかなと考えて臨みます。考えたことが体に残っていると信じた上で、現場に入ってからはあまり理屈で演技はしません。吸い方とか、手の置き方とか決めずに反応しやすい体にして集中する。これの積み重ねだと思います」

 

理屈で納得し、感情で動くことを体現しているからこその言葉です。最後にドラマ『エルピス』の中で三浦さん自身が気に留めた台詞を聞くと、選んだのは第2話で恵那(長澤まさみ)が放った『本当のことを喋っていると声が変わる』という台詞でした。

「お芝居にも通じるもの。書かれている台詞をそのキャラクターが本当に言っている言葉にして言うべきものだと思うので、声が変わることもあるというのをわかっておかないといけないって思うのです。普段も人と接している時に、この人は本当のことを言ってくれている人だとか、その裏側に何かあるかもしれないとか、無意識に音で判断しているかもしれないなって思います。私が音に敏感だからかもしれませんが。これは相手に対することだけじゃなく、自分にも返ってくるものです。仕事の上で大事なのは、嘘だと思わせないこと。そんなことを日頃から考えています」

どの答えも三浦透子という女優として、人として、独自の考え方を示し、同時にドラマ『エルピス』に通じる“嘘”がない言葉だと感じさせるもの。カンヌという特別な空間でのインタビューでしたが、気負わない答えがそれを物語っています。


取材・文/長谷川朋子 構成/山崎 恵
 

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