日本の家庭料理に革命を起こした戦後を代表する料理研究家の著書に「私が死んでもレシピは残る」という印象深い言葉がありますが、最後の最後まで人を励ますレシピ開発をした料理研究家、舘野真知子さんの生前最後の書籍 『もう失敗なんて怖くない!がんばりすぎない発酵づくり(以下、もう失敗~)』 が出版されます。

普段の生活の中でも発酵食品作りを楽しんでいた発酵食とその料理のスペシャリスト、真知子さんのレシピの魅力は、すぐに手に入る食材を使って、誰でも簡単に作れるように易しく説明をしていること。毎日食べても飽きない定番料理から、家飲みの格を上げるちょっと贅沢な一品、賑やかなホームパーティーに彩りを添えるメニューまで、どれも無理せず、楽しく作れるように紹介しています。

料理研究家の舘野真知子さん
 

本棚に仕舞い込むのではなく、キッチンの棚にいつも置いてほしいと願い完成した『もう失敗~』は、特別な日の凝った一品ではなく”日常のなかにある料理”を追求し続け、人に寄り添い続けた真知子さんの人柄が溢れています。それは管理栄養士という経歴から、レシピが作られる原点に栄養のこと、人の体のこと、食べ物のこと、美味しいもので人を喜ばせたいという優しさがあります。忙しい日々を送っていると忘れがちな、“美味しく楽しく食べよう”という人の営みの本質が原点にあり、当たり前の日常にある食事こそが、私たちの体をつくる糧であり、一緒に食事を楽しむ人達との時間がかけがえのない幸せだと気づかせてくれます。

だからこの本は、エプロンをして腕をまくり「よ~しやるぞ!」と意気込むというよりも、「お腹すいたな~、今日は何を作ろうかな」 と温かいドリンクを飲みながらリラックスしてページをめくり、気軽に作って楽しんで、たまに失敗もしながら腕を磨いていく一冊。 真知子さんが本書で『ちょっとした手間と時間が自然な美味しさを生み出す発酵の神秘性に惹かれます。同じように作っても毎回味が違う、それでもいいという慣用性が好きです』というように失敗を恐れず、食と共に育っていくような感覚です。

書籍「もう失敗なんて怖くない!がんばりすぎない発酵づくり」

舞台裏の語られることのない物語、おいしいが紡ぐご縁と絆

真知子さんとの最初の出会いは、私が長くお仕事をさせて頂いている(真知子さんの)旦那様にお招き頂き、ご自宅の葉山でご馳走になった時。真知子さんは、燦々と降り注ぐ光のような穏やかさがありながらも、少女のようにはしゃぎ、キャッキャッと笑う若々しい活力があり、飲みっぷりもよくって、とても魅力のある方。帰り際、「ポートランドとニューヨークで 英語訳版の漬物レシピ本のイベントをする」と聞き、その数ヶ月後、秋のニューヨークで再会を果たしました。

短い期間で二カ国でお会いできるということにご縁感じつつ、「来る者は拒まず」に人と人を繋いでいく真知子さんのどこまでも深い懐に驚きと敬意。そして、サービス精神旺盛な真知子さんは、ニューヨークのイベントで、彩り押し寿司やお麩入りの味噌汁の試食、可愛らしいサイズのグラスジャーに小さく切られた野菜を参加者が自分で詰めて持って帰れる塩麹ピクルスのお土産までを用意。

当時振る舞われた料理と、気前のいい大盛りの野菜は前夜に、真知子さんと東京から忙しい合間をぬって手伝いにきたマネージャーの松本岳子さんが深夜まで仕込んだもの。有給を使って、担当しているクリエイターのために海外にまで足を運ぶマネージャーさんを私は他に知りません。元パティシエの松本さんは料理の知識と経験が豊富で、料理に携わるプロとして色々と察してくれる部分が多く、本当に頼りにしていると真知子さんも言っていましたが、共創が自然とできている抜群の二人組。

(過去に出版された別の)書籍のチェックをしている松本さんの姿を、真知子さんが撮影したもの。生前にアップされた真知子さんのインスタグラムより。

今春、真知子さんは旅立つ直前まで『もう失敗〜』のレシピを提供し、松本さんは最後の最後まで寄り添い続けたと聞いています。美味しいものが食べたい、作りたい、伝えたいという気持ちでつながった二人は何か言葉では言い表せない絆で結ばれているように感じます。

食べる力は生きる力、料理で人に元気を与え続けたミモレ世代の著者が完成させたとっておきの一冊、ぜひお楽しみくださ〜い♪

写真提供、小林一匡氏