中性脂肪の数値と心筋梗塞・脳梗塞の発症に因果関係はあるのか?【医師の解説】


山田:この研究では、中性脂肪を下げる薬を投与するグループ、それから、見た目が同じで、全く効果のない偽物の薬を投与するグループに分けられています。そして、各グループでそれぞれの薬の投与を開始し、中性脂肪を下げる薬を飲んだグループに心筋梗塞の発生が減っていれば、薬を飲んで中性脂肪を下げることと心筋梗塞との因果関係を示すことができます。
では、中性脂肪が高いと指摘された1万人以上の人が参加し、4年ほど経過観察をした研究結果をご紹介しましょう。

 

編集:すごく大規模な研究ですね。

山田:結果、中性脂肪を下げる薬を投与されたグループでは、中性脂肪の値は30%以上下がり、偽物の薬を投与されたグループは、6.9%の低下にとどまりました。ですが、「実際に病気がきちんと減ったか」を見てみると、実は両方のグループに、同様に脳梗塞、心筋梗塞が発生していたのです。

編集:ということは、中性脂肪の値が低くなったとしても、病気は防げていなかった、ということなのですか?

山田:そうですね。この結果から言えることは、中性脂肪の数値はたしかに下がったものの、おっしゃる通り肝心の病気を減らしているわけではなかったのです。そして実は、中性脂肪を下げることが病気の発生を防ぐこととは限らない、というのは繰り返し証明されており、今回の研究が初めてではないのです。

編集:なるほど……。なんだか少し、残念です。

山田:ここで考えておかなければならないのは、「数字遊び」をすることは、必ずしも健康を守ることにつながらない、ということではないかと思います。

よく検査データを見て、一喜一憂するようなシーンを見ますが、「目的を見失わない」ということは大事ですよね。数字を下げるために治療をしているわけではなく、その先の健康を守る、病気から体を守る、ということを達成するために治療をしているのですから。

編集:中性脂肪の値を見る目が変わりました。

山田:中性脂肪の値を低下させる薬に関して言えば、少なくとも心臓や脳を守る、ということにはうまく効果を示してくれてはいません。ただ、冒頭で説明した膵炎を防ぐという意味では、この薬は有効なのでは、と考えられています。

編集:健康診断を受ける際に、数字に一喜一憂せず、目的を見失わないようにしたいと思います。本日も、ありがとうございました!
 

中性脂肪を下げても病気は減らない?1万人の調査結果からわかること_img0

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構成/新里百合子
 

 


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