日本円は約半年で3分の2に価値が下落しましたから、外国から見れば日本で稼いだお金も3分の2に減ってしまいます。出稼ぎに来ている労働者は日本で働いてお金を貯めて、それを本国に送金していますから、本国に送金する金額が大幅に減ってしまうことになります。このまま円安が続いた場合、彼らが日本で働くメリットがなくなり、多くの労働者が本国に帰国してしまう、あるいは賃金の高い国に行ってしまう可能性が高いでしょう。

そうなると、ただでさえ人手不足なところに加え、外国人労働者がいなくなってしまいますから、日本経済は極めて深刻な事態に陥ります。

外国人技能実習制度を利用し、新潟県のニット工場で働くベトナム人実習生。(写真は2019年当時)写真:ロイター/アフロ

国内では、円安によって割安になった不動産を外国人が買い漁っているといった懸念の声をよく耳にします。確かに半年で日本円は3分の2になったわけですから、今、日本の不動産を買おうとしていた外国人にとっては、大バーゲンセールに見えるでしょう。しかしながら、こうした現象は一時的なものにすぎません。

通貨が安くなった国が本当に懸念すべきなのは、お金や人が外国からやって来ることではなく、お金や人が外国に出て行ってしまうことです。今後も円安傾向が続いた場合、外国から見た日本の不動産価値は毎年、目減りしていくことになります。日本に投資しても価値が減るばかりと判断された場合、彼らは不動産を叩き売って、海外にそのお金を戻してしまうでしょう。

 

同じように外国人労働者も、日本では稼げないと判断した場合には日本から出て行ってしまいます。さらに言えば、今度は日本人が海外の高い賃金を求めて出稼ぎに行くという事態もありえないわけではありません。

実際、日本国内と全く同じ仕事をしていても、海外で働けば給料が2倍から3倍になるケースが続出しており、外国での就労を目指す人が着実に増えています。日本と異なり海外の企業には長時間残業やサービス残業はありませんし、現地の生活費が高額である分を差し引いても、日本で働くよりも大きな金額を貯金できます。

日本から資金や人が海外に大量に流出した場合、国内では企業の資金調達もが難しくなりますし、人手不足にさらに拍車がかかることになります。一方で日本人の稼ぎは増えませんから、景気も拡大せず、不景気な状態のまま、人手不足や資金不足が深刻化するという最悪の事態も考えられるわけです。

確かに為替の上下変動にはメリットとデメリットの両方がありますが、日本経済の現状を考えた場合、円安が長期化するデメリットは計り知れません。 これ以上円安が進まないように各種政策を立案すると同時に、日本企業の競争力を強化し、日本人に対して高い賃金を払えるような経済構造に転換していく必要があるでしょう。

 


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